「あー、やっぱマリィちゃん強すぎ!さすがはジムチャレンジャーだ。」
「ナマエのポケモン達だって強か。」

今日は用事が早く終わったので、たまたま予定の空いていたマリィちゃんとスパイクタウンの近くの原っぱで一戦を交えた。最初はこっちが有利だったけど、だんだんマリィちゃんのペースに巻き込まれてしまい結果は私の負けだ。

「そろそろ新しいあくタイプのポケモン育てたいなぁ。何が良いと思う?」
「兄貴も持ってるけど、タチフサグマとか?」
「お!良いかも。」
「で、そんな兄貴とは最近どげんね?」

マリィちゃんが何やら含みのある言い方をしながらいたずらっ子のような表情で私の顔を覗き込んできた。それよりもマリィちゃんは私がネズさんを好きだという事は知らない筈なのに。

「何でネズさん!?」
「マリィには分かるよ。最近のナマエ、恋する乙女みたいな顔しとるけん。」
「お、おと、乙女とかそんな!違うし!」
「いーや、違わなくなか!」

ネズさんとは一緒に作詞したっきり会っていない。スマホを持っていないので連絡の取りようもなければ、ジョウトの地元でやっていたようなポケモンに手紙を持たせて相手に渡すのだって付き合ってもないくせに何だこいつって思われるだろうし、第一返事が来なかったらと思うと今後会った時に気まずいし絶対にできない。

「その…ポケギア圏外だから連絡取れないし…。」
「ぽけぎあ?あー…そういやナマエ、スマホ持っとらんかったね。」
「うん…。」
「おっしゃ。んじゃ今から買いに行こ!」
「えっ!今から!?」

マリィちゃんに半ば引きずられシュートシティのスマホショップに連れて来られた。数回しか訪れた事が無いけど、いつ来てもガラス張りのスタイリッシュな建物や煌々とした電光掲示板に目を奪われる。いつも混んでいるスマホショップは平日のお昼過ぎという事もありラッキーな事にすぐに対応してもらえた。そして、あれよあれよという間に私はスマホを手に入れた。

「すごっ!薄いし小さい!何これ!?」
「スマホも手に入れた事やし、兄貴んとこ行こっか。」
「ま、まだ心の準備が…!」

だいたいネズさんはジムリーダー兼シンガーソングライター。そんな芸能人が最近知り合った妹の友達に易々と連絡先を教えるとは到底思えないし、仮に私がネズさんの立場だったら連絡先を教えるのは少し躊躇うもんな。

スパイクタウンに着くと最奥の広場から低音が聴こえてきた。あぁ、あと数分もしないうちに私はネズさんに連絡先を聞かなければならないんだ。緊張していたせいか、指先はすっかり冷たくなっていた。

「や、やっぱり日を改めて…。」
「だーめ!」

運が良いんだか悪いんだか分からないけどライブが丁度終わったらしくエール団の人達が広場から出て来るのが見えた。エール団の人は見た目は怖いけどみんな良い人だ。もしも私がジムチャレンジャーだったら敵視されていたかもしれないけど。そんな事を考えてながら広場に向かうとフェンス越しにマイクスタンドを調整しているネズさんが見えた。

「兄貴!」
「マリィにナマエ。どうしたんです?」
「ナマエがスマホ買ったけん、お披露目しに来た。」
「良かったじゃねーですか。んじゃ連絡先教えてください。お前には何かと連絡する事がありそうなんでね。」
「は、はい……!」

まさかネズさんの方から連絡先を聞いてくれるなんて。ただ私は買ったばかりのスマホをまだ上手く使いこなせていないので、隣に居たのに何故か斜め後ろに下がっていたマリィちゃんに助けを求めた。ちなみに何故後ろに下がっていたのかと後で聞いたところ、このままフェードアウトして私達を二人きりにしてやろうと計画を企てていたらしい。この子は時折、可愛い顔をしてとんでもない事を考えるんだ。
渋々マリィちゃんが自分のスマホで電話帳登録のやり方を調べてくれている間に、なんと私の後ろからネズさんがスマホの画面を覗き込み、その体勢のまま私のスマホを慣れた手つきで操作してくれた。つまり、後ろから抱き締められているのと同じぐらいの距離感なわけで。

「これですよ。」
「あっ、あっ…はひ…。」
「兄貴、やば。」

これにはマリィちゃんも予想外だったらしく目を丸くしていた。兄が妹である自分の友達にほぼ密着していたら、そりゃこんな反応にもなるか。当の私はというと、ネズさんの息遣いや控えめに纏ったコロンの香りに頭がおかしくなりそうになっていた。全神経がネズさんに集中してしまいスマホの事なんか考える余裕は全く無かった。

「俺のは登録できましたよ。お前のも教えてください。」
「は…い…。」

以上が連絡先を交換した日の話だ。それからというものネズさんに作詞のお手伝いを頼まれたり新曲の感想を求められる事が増え、お互いの距離は順調に縮まっていった。


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