お父さん、お母さん。元気にしていますか?バタバタしていて手紙を送れなくてごめんなさい。私もポケモン達もとても元気です。ガラルは人間だけじゃなくポケモンまでおしゃれで驚きました。こっちにもアサギシティのような港町があって、さすがにアカリちゃんのようなポケモンは居ないけど立派な灯台もあります。

「手紙ですか?」
「うん、両親にね。」
「そろそろお前の故郷にも一度顔を出したほうが良さそうですね。」
「ネズさんを見たらキキョウシティの人達びっくりしちゃうかも。」
「どういう意味ですか、それ。」

頭を雑に撫でられ髪の毛がぐしゃぐしゃに乱れた。ふと壁に貼られたネズさんのリーグカードが目に入った。欲しいと本人に言えなくてマリィちゃんにお願いして分けてもらったんだっけ。

確か、私達の出会いは最悪だったと思う。ガラルに降り立った瞬間ポケギアが圏外になってしまい、右も左も分からないままワイルドエリアに迷い込んでしまったのが事の発端だ。

「グルルル…!」
「ヘルガー、どうした…の…?」

ヘルガーが威嚇する先には、明らかに私の手持ちよりも強いであろう巨大なパンダが殺気を放っていた。慌ててヘルガーと少し前を歩いていたブラッキー達をモンスターボールに入れて一目散に走った。もちろん自転車なんか持って来ていないからただ走る事しかできないし!パンダは諦めるどころか物凄い勢いで私に追いつこうとしていた。

「来ないでぇぇぇ!!」

生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた時、涙なんて出ないんだとこの時思い知らされた。ポケモントレーナーとして強くなりたくてわざわざ一番遠いこのガラルを選んだというのに。こんな所で絶対に死にたくない。ましてやパンダに踏み殺されましたなんて地元の人達の耳に入ってしまったらそれこそ一家の恥だ。

「タチフサグマ、ブロッキング!」

突然私の目の前に現れた白黒のポケモンと白黒の男性。どうやらパンダから守ってくれているらしい。少し柄が悪そうな人だけどかなり強くて、あっという間にパンダを追い払ってくれたのだった。

「大丈夫ですか?」
「は、はひ……。」

気付くと私は腰を抜かしてしまっていた。差し伸べられた手を恐る恐る掴む。細くて骸骨みたいな人だ。顔色は悪いし目つきは悪いし…あれ、もしかすると私はヤバい人に助けられたのかもしれない。

「あの…ロケット団の人ですか?」
「は?」
「す…すみませんでした!」

怪訝そうな顔で見つめられ、怖くなり手を振りほどき走り去った。お母さんにロケット団には近付くなとあれほど言われていたのに。っていうかこっちにまでロケット団が居るなんて…!


それから数ヶ月が経ち、ガラルの地形やポケモンに少し慣れて来た頃。たまたま入ったブティックで可愛いワンピースを見つけ手に取った。否、取ろうとした。

「あっ。」

指先が軽く触れ、可愛らしいツインテールの女の子と目が合った。どうやらこの子も同じワンピースが気に入ったらしく手に取ろうとしたみたいだ。

「ごめんね。」
「いえ、私もごめんなさい。」

同年代ぐらいの女の子で、エメラルドグリーンの目がとても綺麗だった。どこかで見た事があるような色だけどすぐには思い出せなかった。

「あなた、あたしと同じにおいがする。」
「えっ?」

そう言われてから打ち解けるのにそこまで時間はかからなかった。その子はマリィちゃんというのだけど、マリィちゃんも私と同じあくタイプのポケモンが好きらしい。ガラルでは生息していないらしく、ヘルガーとヤミカラスを見せた時はとても驚いていた。そういえばこっちの空港に着いた時に他地方のポケモンが野生に放たれてしまうと生態系が崩れるとか何だかで、ヘルガーとヤミカラスのデータとトレーナーIDの提出を求められたっけ。

「そうだ。あたしの兄貴もあくタイプのポケモン使いやけん、紹介してもよか?」
「うん、会ってみたいな!」

マリィちゃんに連れて来てもらったのはスパイクタウンだった。初めて来たけど薄暗い中にネオンが光り輝いていて何となくコガネの地下を彷彿とさせる。

「ちょっと待ってね。…あ、もしもし兄貴?兄貴に会ってほしい子がおってさ、スパイクタウンに来てくれとるけん、ちょっと出て来て。ポケセンの前ね。うん、はーい。」

少し経ってから、男の人が奥から出てきた。どこかで見たような……。向こうも同じ事を考えていたらしく、私の顔を見て顔を引き攣らせていた。

「お前、」
「…あ、あの時のロケット団…!」
「あれ、知り合い?」

どうやら本当にロケット団ではなかったらしい。勝手に悪の組織だと勘違いしてしまった事や助けてもらった時にきちんとお礼を言えなかった事を全力で謝った。雰囲気は最悪だったけどマリィちゃんが間に入ってくれたおかげで無事に和解できた。


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