ライブは大盛況のうちに終わり、マリィちゃんの顔パスで楽屋へ通してもらえる事になった。マリィちゃんに軽く背中を押されて楽屋のドアを控え目に叩く。程無くして鍵が開く音がし、今夜の主役が顔を出した。

「兄貴!ライブお疲れ様!」
「ネズさん、素敵なライブでした。」
「二人とも、今日はありがとうございました。」

先程と同様に背中を押され、振り向くとマリィちゃんがにんまりと口角を上げていたずらっ子のような笑みを浮かべていた。前にも言ったかもしれないけど、この子は時折可愛い顔をしてとんでもない事を考える。

「マリィはここまで。あとはお二人でごゆっくり!」
「マリィちゃん!?」

案の定この可愛らしい悪魔ちゃんはとんでもない事をしでかしてくれた。爪先がツンと上がったブーツをこつこつと軽快に鳴らして走って行ってしまい、私が伸ばした手はマリィちゃんの服すら掴めず情けなく宙を切りそのまま垂れ下がった。

「とりあえず中へどうぞ。」
「あっ、はい…お邪魔します。」

ポケモン達はモンスターボールに格納されており、楽屋内は私達二人だけだった。7畳程のこじんまりとしたこの楽屋はネズさん専用らしく余計な物が一切置かれていない所が何ともネズさんらしい。
どうして良いか分からずたじろいでいるとネズさんに座るよう促され、すぐ近くにあった革張りのソファーに浅く座った。

「お前が来るとマリィから聞いて直前にセトリを変えたんですよ。」
「そ、そうなんですか?」
「本当は次回のライブで披露しようと思っていたんですけどね。」

馴染み深い歌詞や曲のメロディー、そして囁かれているようなネズさんの甘い声がまだ耳に残っていて思い出すだけで泣いてしまいそうだ。

「あの曲は、お前の事だけを考えて歌いました。」
「ネズさん…っ、」
「俺の気持ちが少しでも伝わっていれば良いんですけどね。」
「私、感動して…泣いてしまって、っ、」
「見えてましたよ。あの時はステージを降りてお前を抱き締めたくなりました。」

ネズさんと向き合う形で膝に乗せられ、ついに堪えていたものが決壊してしまった。子供のように泣きじゃくる私を見てネズさんは困ったように眉毛を下げて笑った。その一つひとつの表情も愛しくて、大好きで。
細い身体に抱き締められ、泣く子をあやすようにひくひくと嗚咽が止まらない私の背中をリズミカルに優しく叩いてくれた。

「泣き虫なナマエも可愛らしくて好きですけど、どうせなら笑顔を見せてくれませんかね。」
「今は無理ですっ…。」
「駄目か。」

私の反応を見て楽しんでいるのか喉を鳴らして笑っている。ふとした時に出る砕けた口調も私には効果抜群そのものだった。

ネズさんのヒット曲の中に"歌で誰かを幸せになんて俺には無理だ"といった歌詞があるけれど、ネズさんの歌で私はこんなにも幸せに満ち溢れて、更にはネズさんという名の沼にどんどん浸かっている。


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