タソガレドキ忍軍の昔話

日々は滞りなく流れた。何度となく戦場に赴き腕を振るい、数多くの忍務をこなした。私とnameは十四になっていた。
城に詰めている小頭に呼ばれた私たちはタソガレドキ城に登城する。山本どのを見るやnameが「山本さんちゃんと寝てますか?くま凄いですよ」と気安く指をさすので肝が冷えた。「そこそこかな。私も村に帰って子供たちに会いたいよ」と零す山本どのは疲労の滲んだ顔で肩を落とす。奥さんも寂しいでしょうねと追い打ちをかけるようなことを言うので私は「もう黙れ」とnameの口を塞いだ。
私たちに与えられたのは隣の城に偽の文を忍ばせにゆくという忍務であった。「これね。無くさないように」と渡された文を私は両手で捧げ持つ。お堅いねぇ陣左は、と小頭は笑った。

「どうせ来たなら城下を案内してあげるよ」

「小頭、まだ仕事が……」

山本どのが咳をして言う。

「息抜きも必用なんです」

ね、と同意を求められ私が返事に迷っているのをよそに、nameは「息抜きは大事だと思います!」と右手を高々と上げるので、こっそり山本どのを窺うと困った顔で腕を組まれているのだった。少しだけですよ、と渋々承知した山本どのに急き立てられながら部屋を後にする。
城下は賑やかく、活気にあふれていた。「諸泉どのがいつもお土産に買ってくる饅頭屋はあっち」「美味い団子屋はこっち」と小頭が指をさす方向に忙しなく視線を走らせるnameを小頭は愉快そうに見ていた。
村とは違って桁違いに人が多い。目と鼻の先であるけれど、私たちが城下にやってくることはこれまでほとんどないに等しかった。戦が近くなると隊の主だった隊員は城の長屋に詰めなくてはならない。入隊した私たちも、いずれはここで生活を送ることとなるのだ。「城なんて息苦しそうで嫌だ」と零していたnameも、いつの間にか両手に甘いものを持って満面の笑みを浮かべているのだから世話がない。
見慣れた忍び装束ではなく、どことなく余所行きの雰囲気を醸し出したnameは髪なども結ばず背中の中ごろまで垂らしており、はたから見れば美しい町娘そのものだった。はぐれぬように小頭のあとをついて歩くnameの横顔を眺めながら歩いている私の袖を掴むものがある。なにやつ、と思い振り返るとそこには泣きそうな顔をした尊奈門の姿があった。

「なぜお前がここに」

「父上につれてきてもらったのですがはぐれてしまいました」

そういえば諸泉どのは今日休みとか言っていたような。背後で「陣左ー?どうしたのー?」とnameの呼ぶ声がするので振り返りこっちへ来いと手招きをする。何故こんなところに来てまで尊奈門の面倒を見ねばならんのだ。しかし溶けかけた飴を片手に「ちちうえ……」と唇を噛んでいる彼の姿を目の前にしてそのようなことを言えるはずもない。
雑踏の中から唐突に怒号が聞こえ、私と尊奈門は顔を見合わせた。何事かと声のする方を振り向けば、ガタイのいい男ふたりがnameの前に立ちはだかっているではないか。「高坂さま、どうしましょう」「あやつら、殺されるぞ」事実、あのような男などnameにかかればひとひねりである。しかし白昼の城下でそんな物騒な真似ができるわけもない。どうすれば穏便に事を済ませられるか。男の私が出ていって私の連れになにをするとでも言えばすごすごと引き下がるであろうか。が、男たちは私よりも身体が縦にも横にも大きく、また年嵩であった。ガキが、と舐められ火に油を注ぐことになってはなお面倒だ。ううむどうする。思案していると、三人を中心として空洞ができた人だかりに小頭が割って入る。

「すみませんね、うちのが」

軽い調子で片手をあげると小頭はnameの肩に手を回した。その仕草は気安い恋人同士がするのとまったく同じで、nameの首筋が赤くなるのが遠目にもわかった。男ふたりよりも小頭の方がやや背が高く、そして纏っている雰囲気が常人のそれとは異なっているのが伝わったのだろう。隠しても隠し切れないのか、それともあえてそうしたのか。ありきたりな捨て台詞と共に男たちは姿を消す。私の手を握っている尊奈門は「小頭、かっこいい」と心酔した顔をするので肯くしかない。溶けた飴で尊奈門の手はベタベタしていた。
nameの手を引きながら私たちのところにやって来た小頭は「あれ、尊奈門どうしたの」と言うと繋いでいた手を離す。nameは耳を赤くして俯いていた。いつもなら尊奈門を見るや否や駆け寄ってきてもちもちとした頬を両手で包んで可愛がるのにそれすらしない。さすがの尊奈門でさえ何かがおかしいと思ったのか、nameの顔を覗き込む。「nameさま?」と尊奈門が口を開いたところで諸泉どのが大慌てでこちらにかけてきた。

「申し訳ない、勝手にちょろちょろするもので見失ってしまいました。まさか小頭たちと一緒だとは」

尊奈門を抱き上げた諸泉どのは額の汗を拭うと「いや、本当に助かりました。ありがとうございます」と頭を下げた。「じゃあ私は城に戻るから。きみたちは諸泉どのと村に戻んなさい」そう言うと組頭はじゃあね、と私達に背を向けた。

「よかったな」

「なにが」

「小頭に手繋いでもらえて」

nameは怒った顔を私に向けるが、何かを言おうとして結局なにも言わず顔を赤くして「そんなんじゃ、ないから」と静かに言った。
以前小頭に持ち込まれた縁談は情勢の移ろいで破談となった。しかし若くして有望、かつ見目も良いとあらば是非婿にと望む声も多いらしく、破談となってしばらくするとまた新たな縁談の話が持ち上がっていた。所帯を持つのは良いことです、と山本どのが小頭に話しているのを聞いたことがある。小頭はといえば「ああ、そうなの」とすげない返事をしていたけれど。

「村に帰ったら明日の段どり、もう一回確認しよう」

「ああ、そうだな」

「尊奈門も一緒にゆきたいです!」

諸泉どのに肩車をされ、誰よりも目線が高くなっている尊奈門。「まだ無理だよ。まったく、お前は幼いから困る。忍びの仕事がしたくば陣内左衛門やnameのように鍛錬をしなさい。そうして小頭や小頭のお父上のように立派な忍びになりなさい」帰ったら刀の稽古だぞ、と諸泉どのが肩を揺すると「父上、おちる!」と尊奈門が騒いだ。
山本どのが所帯を持つのは良いことと言ったのは、ぼんやりとだが理解できた。人は守るべきものがあるからこそ強くなれる。それは自分たちの人生によって嫌というほど了知していた。
稽古場の片隅で城の見取り図を広げ額を突き合わせる。現在は目立った小競り合いもないため領地の境の警備は手薄だろう。城内は警備の者に加え、忍びの者が常に目を光らせているがタソガレドキ城ほどではない。油断は禁物であるが、難易度はそこまで高くはないと思われる。というのが私たちの見立ててであった。文箱に偽の文を忍ばせたらすぐさま撤退。退却は様子を見つつ城の北側の塀を越え、そのまま崖を降り堀を越える。うまくやれば翌日の昼前には戻ることができるはずだった。
いつものように村の入り口まで尊奈門の見送りを受け私たちは出立する。そして日が暮れた頃、予定通り城壁に鍵縄をかけ城にはいった。城内は静まり返っており、足音を忍ばせ気配を消し目的の部屋へ向かう。漆塗りの文箱は夜の闇にあっても艶やかであった。見張り役にnameを立たせ、音をたてぬよう細心の注意を払い襟元に忍ばせておいた偽の文を文箱にしまう。人の気配がないことを確認し部屋を後にした。
あとは退却を残すのみ。いつもより言葉少ないnameの様子が少し気になったものの、機敏な動きは普段と変わらない為思い違いかとなにも言わずにおいた。もしかしたら昨日の城下でのことを引きずっているのかもしれない。nameに限ってそのようなことがあるわけがないということに、私は思い至らなかった。それが今回の忍務最大の失敗であった。
屋外へ出て、互いの死角を補うように警戒しつつ城内を壁伝いに北へ行く。幾つかある蔵の合間を縫って、もう少しで脱出地点というところで蔵の屋根の陰にいたらしい忍びに姿を捕捉された。足元に火車剣が刺さり、私とnameは後方へ飛ぶ。曲者がふたり忍び込んだことは、たとえ淡い一瞬のあかりでも敵方にはばれていたらしく、鋭い合図の音と共に瞬く間に囲まれる。忍びには忍びで応戦するつもりなのか一般の城兵が来る気配はなかった。
二対六。円形に囲まれる。完全にこちらの分が悪い。じり、と間合いを僅かに詰められた。深く息を吸う。恐怖を抱くなかれ、敵を侮るなかれ、思案を過ごすなかれ。躊躇している暇はない。目的は達成したのだ。成すべきことはただひとつ、なんとかしてこの窮地を切り抜け村に戻る、それだけだ。

「いけるか」

「うん」

焙烙火矢で目くらましをする手もあったが、こちらはふたりなため音と光でこれ以上敵を集めるのは不本意なので、ここは目の前にいる六人を速やかに倒すしかなさそうである。ふ、と息を吐き私は姿勢を低くして八方手裏剣を左手に投げた。急激な弧線を描き本来ならばあたるはずのない敵目掛けて飛んでゆく。気が付いたときにはもう遅い。薄い歯が肉に突き刺さる音が暗闇をかすかに震わせる。じきに毒が回るだろう。あと四人。背後でnameが土を蹴る音がした。野兎のようにしなやかに美しく夜を駆け、そして牙をむく。まだ若輩であったのか、nameの俊敏な動きに対応できず敵はあっさりと喉笛を掻き切られた。まずい、と気が付いた敵は忍刀、または苦無を手にして一斉に斬りかかってくる。繰り出される刃を交わしながら一瞬の隙も見逃すまいと闇に目を凝らす。
いつからだろう、夜の闇を怖いと思わなくなったのは。夜の森でnameと満天の星空を見てからか、それとも、小頭に幾度となく実践的な稽古をつけてもらってからか。「夜は私たちのための時間だ」nameも、小頭も全く同じことを私に言った。信頼するふたりがそう言うのだから間違いないだろう。私はいつしか夜の闇を親しい友のように思うようになっていた。
斬りかかるために腕を振り上げたせいでがら空きになった懐に身体を滑り込ませ、わき腹を一文字に斬り裂く。血飛沫が地面を濡らす。あと三人。刀身についた血を素早く振り払って落とし、右斜めから切り下ろしてきた苦無の刃を受け止める、鈍い金属音が響き、衝撃で手のひらが痺れる。nameも同様に金属音を響かせながら交戦しているらしいが、一瞬でも目を逸らすことは命取りになるため視線は敵からそらさない。
飛んできた苦無を避け、そのままの勢いで横っ飛びに転がり八方手裏剣を打つ。しかしそれは囮であり、ゆるく曲線を描く手裏剣に意識がそれた敵めがけて棒手裏剣を直線に打つ。呻き声があがるがそれだけでは足りないので膝をついた敵のうなじを撫で切る。そしてまた血飛沫。
あと、ふたり。nameは小柄な相手とやり合っている。力は互角なようで勝負はいっこうについていない。珍しいこともあるものだ。刀のつかを握り直すと「よそ見をしている暇はないぞ」と思ったよりも近い距離で声がして、私は大きく飛びのいた。「お前のツレの相手はうちの頭だ」残念だったな、と嘲笑を隠しもしないわざとらしい憐れみの声で言うと男は蹴りを繰り出してきた。接近戦か、悪くない。
そう思った時だった、nameの短い悲鳴が上がったのは。心臓が跳ねる。nameのそんな声を今まで一度たりとも耳にしたことがなかったからだ。「女、なのか?」とnameが対峙している男がnameに近付く。腕を斬りつけられたらしいnameは右腕の二の腕のあたりを抑えていた。それでも膝をつくことなく刀を構えている。
「よそ見していていいのか」苦無を握った拳が飛んでくる。助けにゆきたいがまずはこいつを仕留めねば。できるだけ短時間で確実に仕留めるためには……。私は左右に身体を揺らし、気取られぬように左手で小柄を抜く。時折苦無が降ってくるので右手の忍刀で受け流し、わざと狙いやすいように隙を作る。これで終いにするつもりであるらしいひときわ強い蹴りを繰り出す素振りが見え、よし、乗ってきたとこれから来るであろう衝撃に備え腹に力をいれた。思った通り蹴りをくらわされ身体をくの字に折る。鈍い衝撃と痛みは波紋のように身体に広がるが、この時こそが好機なのだ。相手がすらりと刀を抜きとどめを刺そうとするよりも早く、左手に隠し持っていた小柄を首に深く突きたてる。見開かれた眼は血走って、死への恐怖で満ちていた。死ぬのか、と唇が動くも声にはならない。代わりにごぼりと血を吐き頽れる。そうだ、お前は死ぬのだ。動かなくなった敵を一瞥してnameの方を振り返ると、ちょうどnameが相手に斬りかかるところだった。
刃同士がぶつかり、その激しさに火花が煌々と散った。何度も激しく斬り合ったのち、敵方の刃がnameの忍刀の刃を鍔まで滑る。これではあまりにも距離が近すぎる。下がれ、と私が口を開く前にnameの身体がぐらりと揺れた。どうした?相手はなにもしていないはずだ。相手も何事かと束の間手が緩まるが、仲間を屠られた怒りが沸いたのだろうかnameの胸ぐらを掴んで激しく揺さぶった。nameは力なく揺さぶられている。明らかに様子がおかしかった。ほとんど無抵抗なnameにとどめを刺すべく刀を振り上げた敵は、しかし、動きを止めnameから手を離す。どさり地面に落ちたnameの身体を男が思い切り蹴りあげた。鈍い音がして、nameの細い身体は宙を舞う。
nameという女はそのように無碍にされるべき存在ではないのだと、nameを蹴ったその足をめった刺しにして叫んでやりたい衝動に駆られる。思考が焼き切れるほどの激しい怒りは無意識のうちに私の身体を動かして、懐の苦無を敵目掛けて投げさせる。敵とnameの距離が近すぎて、苦無を投げ込んだところでnameに間違ってあたるかもしれないなどということは思いもしなかった。nameなら避ける。絶対に。私の奥底にはそんな自信があったのだと思う。
飛んできた苦無を避けるために敵が身を引きnameと距離が開いた。見れば男の手には棒手裏剣が突き刺さっていた。男は忌々しそうにそれを抜くと投げ捨て、懐に手を入れた。焙烙火矢、か。棒手裏剣の先には毒が塗布してあるので、これ以上戦うことは不可能だと相手も悟っているが故の焙烙火矢なのであろう。
私はnameの元へ走る。抱き起こしてみればそこから覗く顔は尋常ではない青白さをしていた。一刻の猶予もないため私はnameを抱えて走る。城壁は目の前だった。立てかけた忍刀の鍔に足をかけた私のすぐ後ろで爆発が起こる。熱風が頭巾の端を揺らす。怯んでいる間など無い。なんとか城壁を乗り越え堀を渡る。ここまでくればあとはもう夜の闇に紛れるのみ。私はnameを背負うと森を目指しひた走った。
幸運なことに敵方の追走を受けることはなかった。沢のほとりまで辿り着くとnameを降ろす。まだ意識を失っているnameを草の上に仰向けに寝かせ、上衣の袷が肌蹴ていたので直してやろうと手をかけるが、胴に巻いてあるさらしが異様にきつく締められているような気がしてそっと触れてみる。もしやこれが原因かと緩めてやると、乳房が解放されてふわりとやわらかく盛り上がった。こいつ、隠していたのか……?呼吸ともに上下する胸を見下ろしながら思わず口元に手をあてる。そうとしか考えられなかった。でなければこんなにきつくさらしを巻く必要なんてないだろうに。
見てはいけない光景だったような気がして、nameの胸元を整える。あまりにも、痛々しく、健気。nameがいつもどのような気持ちで、どのような顔をして胸にさらしを巻いているのか。ひとり、ぎちぎちと音がしそうなほどさらしを引っ張り自らの身体に巻きつけてゆくnameの姿を思うと何ともいえないやるせなさに襲われた。
沢の水で顔を洗う。目の覚めるような冷たさだった。目を閉じているnameの隣に寝転んで空を仰ぐとそこには降ってきそうなほどの星々が輝いていた。「おおきくなったらおそらまでとんで、おほしさまをとるの。ちゃんとふたつ、とってくるからね」嘯いたnameの桃色の唇は今や、乾いて血色も良くない。

「どうしたのだ、いったい」

目の下についた砂を指先でそっと払い、そのまま頬を撫でる。
私ではだめなのか、だとか、私にしておけばよかったものを、だとか、そんなことを何度言おうと思っただろう。けれど私は冗談でも言えやしなかった。小頭と私などでは比ぶべくもないのだ。変な気など起こさず、夕陽に誓ったように、私はnameを守るものとして、たんなる幼馴染として彼女の傍にいればいい。それでいい。

「じん、ざ」

「やっと気が付いたか。身体は大丈夫か。痛みは?」

ゆっくりと起き上がるnameは私の問いには答えない。

「ありがとう、助けてくれて」

「私はただお前をここまで運んだだけだ」

そう言うとnameは大きく息を吸って、長い時間をかけて吐きだした。

「いいな、陣左は」

「唐突になんだ」

「男で、いいなぁ」

抑揚の欠けた声はか細く、語尾は尻すぼみに小さくなった。わずかに顔を傾ければnameがどんな表情でその言葉を口にしたのか見ることができるのにそうしないのは、見てしまうのが怖いから。噛んだ唇に血が滲んでいたら、私はきっと、nameを抱きしめその唇に自分の唇を重ねてしまうだろうから。そのような間違いを犯さぬために、私はまっすぐ星空を見る。星座の中にnameにかけるべき言葉が隠れているかもしれないと探したけれどそんなものはありはしない。空には掃いて捨てるほど星が溢れているというのに残酷なことだ。
私は言葉の代わりにnameの手をとった。薄い手の平には、硬いマメが幾つもできていた。私の手にすっぽりと収まってしまうnameの手。幼い時から幾度となくこうしてきた。
生まれた時から男の私になんと言われたところでnameの気は済まないだろう。それに私はnameを納得させられるだけの言葉を持たない。
女という性はnameの妨げにしかなっていないのだろうか。なっていないのだろうな。愛らしい瞳も、艶やかな黒髪も、どれだけ日に晒されても肌理の細かい白い肌も、実は豊かである乳房も。
どれだけ鍛錬を積んでも男のような身体にはなれぬこと。変わってゆく身体つき。昔は変わらぬ背丈だったのに、今では大分上を向かねばnameは私と視線を合わせられない。尊奈門に背を抜かされるのも時間の問題だ。
全てを分かったうえで、そしてこれから思い知るであろう数多の出来事に傷つき打ちひしがれ、それでもなお忍びの道を行くお前を、お前が小頭を崇拝するのと同じように私も尊敬する。
村への道半ばまで私の背中で揺られていたnameは何度も「重たくない?」「ごめんね」と繰り返し、そのたびに「重たい」「足が地面にめり込みそうだ」とふざける私の後頭部をはたくのだった。
村へ帰って数日間、nameは私の前に姿を現さなかった。城にでも行っているのかと思っていたのだが、「初潮がきたの」と無表情のnameに告げられたのは朝早く、村の井戸の前でのことだった。
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