さようなら

部屋に入った瞬間nameはここにやってきたことを後悔した。壁に掛けられた蝋燭は全て消され、リヴァイのいるデスクの上に置かれた一本だけがぼんやりとした明かりを部屋に投げかけている。
扉を開けたまま眉をしかめているnameを見たリヴァイは、咥えていた煙草を手に持ち長々と紫煙を吐き出した。薄暗い部屋と蝋燭の光の所為でいつもより煙が濃く感じられた。

「来いよ」

煙草の先を灰皿に押し付けて火を消すと、立ち上がったリヴァイは少し首を傾げるようにしてそう言った。
nameはどかりとベッドに腰を下ろしたリヴァイの隣、ではなく彼と向かい合うようにして膝に乗る。肩に手をかけ乳房にリヴァイの顔を押し付けたまま、しばらく二人はなにも話さず動きもしなかった。バランスを取るためにどちらかが小さく動くたびにベッドのスプリングがぎぃぎぃと鳴っていた。
煙草の香りが染みたリヴァイの髪からnameは顔を離すと、伸ばした脚で彼の腰を抱く。

「やけに積極的だな、今日は」

「そういう気分」

「だが上に乗られるのは俺の趣味じゃねえ」

「見下ろされるのが屈辱だから?」

「言ってろ」

微かに怒気を孕んだリヴァイの言葉にnameは口の端を上げた。nameの腰に手を回し倒れないように支えながら、リヴァイは荒々しく彼女の唇を塞ぐ。挑むような誘うようなnameの見下した視線を感じて目元を歪ませ、熱い口内を犯しながら歯列をなぞる。
煙草を吸った後のキスは苦い、と嫌そうな顔をするnameはしかし、彼の口づけを拒みはしない。拒否の態度は上辺だけ、身体はその先を欲していることを彼は知っている。唇を合わせたままnameの身体ごとベッドに横たわり、あっという間にリヴァイは彼女を組み敷いた。顔の横に上げられた両手首をシーツに縫いとめられ、nameは「ちょっと、」と口を開く。

「言っただろう、趣味じゃねえんだよ」

「いっつもそれ」

コンプレックス抱えすぎじゃない?とわざとリヴァイを煽るような言い方をしたnameは、唇に残ったどちらのものともわからない唾液を舌で舐めとり目を細めた。
ち、と舌打ちをしたリヴァイは引き裂くようにnameのブラウスに手を掛ける。実際それは音を立てて引き裂かれ、無残な様を晒していた。

「ちょっと、」

「自分で蒔いた種だろうが」

「何枚目だと思ってるの」

リヴァイを睨み上げるnameを鼻で笑うと、彼はブラウスから覗く女の白い皮膚に唇を寄せ強く吸う。歯を立てられながら紫色に変色する程胸元に痕を付けられ、nameはリヴァイの髪を掴む。

「痕、残っちゃう」

「その為にやっているんだが」

それもわからねぇか?
ちゅ、と離れた唇に耳朶を食まれながら低く囁かれ、nameはその声から逃れるように身を捩る。始めのうちは主導権を握ろうとするnameであるが、ひとたびこうされてしまえばリヴァイによって嫌という程身体に刻みつけられた甘い経験が引き金となり彼女の思考を蝕んでゆくのだ。
緩く開いたnameの膝を割り、リヴァイは彼女の乳房を鷲掴む。柔らかく形を変える肉と吸い付くような肌に爪立てた。破れた衣服と屈辱の色を目元に滲ませるnameの姿は背徳を煽り、リヴァイの手つきをより一層荒々しいものへと変えてゆく。
組み敷かれながらも眈々と形勢逆転を狙うnameであったが一度切り替わってしまったスイッチは中々元には戻らず、胸の頂を爪で弾かれとうとう諦めて目を閉じた。

「なんだ、もう終わりか」

「っ、るさい…」

「減らず口叩くだけの力はまだあるらしいな」

「や、…ちょ、っと」

「顔を背けるな」

これ見よがしに硬くなった乳首をべろりと舐められnameは顔を腕で覆うも、リヴァイは喉の奥で愉快そうに笑いながらその腕を無理矢理退ける。
粟立つような快感が腰から首筋を走り抜け、nameは身体を弓なりにした。突き出されるようにリヴァイの眼前に晒された白い乳房には青い血管が透け、肌は細かく震えていた。ふ、と冷たい息をリヴァイが吹きかける。「あ、」と声を漏らして目を見開き涙を浮かべるnameを満足そうに見下ろし、リヴァイは薄く笑む。
胸の刺激だけではもどかしいのか、ゆるゆるとリヴァイの腹に脚が擦り付けられている。欲しいと言わないのは最後の抵抗なのか、無駄な足掻きとリヴァイはnameに残るほんの少しの強がりを面白く思いながら、赤く染まった彼女の首筋を指先で辿る。

「なぁ、どうして欲しい?」

「……っう、」

「言えねぇか。だったら言いたくなるまで焦らしてやってもいいが、どうする」

上になる者の余裕、とでも言いた気にリヴァイは目にかかった髪をかきあげながら眼下のnameに尋ねると、ひとつしかない答えを引き出すようにして親指を彼女の口に含ませた。
ざらついた舌の感触。潤んだ目がリヴァイを見る。言ってしまえ、そうすれば楽にしてやる。視線がそう告げていた。
返事をする代わりにnameの手が伸ばされる。目を眇めてリヴァイは上半身を屈めると鼻先が触れるか触れないかの距離を保ち、そして唇を塞いだ。
舌に乗る微かな煙草の香りに、けれどnameの顔は顰められない。一粒、零れた涙を吸って、リヴァイはシャツを脱ぎ捨てた。

(141010)
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