さようなら

夜は静かに更けていた。招かれたエルヴィンの自室、nameはベッドの上ですっぽりと彼の腕の中に抱かれている。日中きっちりと服を着こなしているnameとは打って変わった艶めいた下着に、エルヴィンは熱っぽい吐息をはいた。

緊張気味に部屋へと入ってきたnameを抱きしめるや否や紙の包みを彼女に押し付け「これを着てほしい」と頼んだのはエルヴィンの方だった。
呆気にとられて口も利けないnameを抱き上げベッドに降ろすと、あれよという間に彼女の身に付けていた衣服を剥ぎ取り身体ひとつに剥いてしまった。
薄い肩を自らの腕で抱き、nameは可哀想に目に涙をうっすらと浮かべて小さくなっている。そんなnameを後ろから包むように抱きかかえ彼女の手を取ると、包み紙のリボンを解かせる。
おずおずと躊躇いがちに動く指先。薄い包みから現れたオフホワイトのベビードールと面積の小さい下着の上下を目にしたnameは、これを着ねばならないのかと困惑して背後のエルヴィンを振り返った。その唇を逃さずに奪ったエルヴィンは、唇を啄みながら「着てごらん」と低く言うのだった。
優しく響く低音にnameは背筋を粟立てる。拒めないことなど、始めからわかっていた。「見ないでくださいね」と恥ずかしそうに言うと、いじらしくエルヴィンの身体を後ろに向かせ、薄く編まれたランジェリーを手に取ると何かを決心したかのように腕を通した。

「あの、団長…」

遠慮がちに呼ばれた名前にエルヴィンは振り返る。ベッドに膝をついてこちらを見ているnameは気恥ずかしそうに視線を落とし、その両手はぎゅっと握られている。
彼女自身のあどけなさと身に付けているものの淫靡な雰囲気のミスマッチに、エルヴィンは目を細めるだけで言うべき言葉を見つけられない。何かまずかったのではないだろうかと不安げに眉を下げたnameを、伸びてきたエルヴィンの腕が抱きしめた。

「綺麗だ」

「あの、でも…団長のお誕生日なのに私がこれを頂くわけには…」

「君がほしいんだ、それだけでいい」

「…っ、」

背中を抱いていた腕が下へと降りて柔らかな尻を撫でる。かさついた男の大きな手は薄いレースをたくし上げるとそのままnameの素肌をまさぐってゆく。敏感になっている肌を愛撫され、nameは真っ赤になりながらエルヴィンのシャツを握りしめる。

「だんちょ、」

「ベッドの上でまで団長は、願い下げだ」

薄く開いたnameの瞳をじっと覗き込んでエルヴィンは言う。頬に添えた手のひら。のばした親指で口に入った髪をひと房よけてやると、ぽってりとしたnameの唇を撫でながら「私の名前を知っているだろう?」と諭すように尋ねるエルヴィン。

「名前で、呼んではくれないか」

懇願とも取れるような彼の表情にnameはしばらく視線を彷徨わせ、そしてようやく小さな声で「エルヴィン」と言うと恥ずかしそうに目を伏せた。
しかしエルヴィンの両手に頬を挟まれ無理矢理視線を上げさせられる。「いい子だ」と微笑んだエルヴィンは引き寄せられるように彼女の唇を塞ぐと、先ほどとは打って変わった深さでnameの口内を味わい始めた。
痛いぐらいの静寂に響くのは荒い呼吸の音とベッドがきしむスプリングの音。これから始まる行為を彩るであろう雑音が木霊しながら二人の鼓膜に響く。
するりと抜けたエルヴィンの手はベビードールの上からnameの乳房を掴み、柔らかく揉みしだく。ブラだけをずらされ覗いた乳首を薄い生地越しに摘ままれ潰され、nameは思わず甘い声を上げるのだった。そんなnameの反応を見たエルヴィンは彼女をベッドに押し倒す。仰向けにさせ脚を膝で割りながら、甘えるような抵抗をみせるnameの両手を頭上に縫い留めた。もう片方の手で右の、舌先で左の乳首をねっとりと攻められて、nameは為す術もなく与えられる快感にもどかしく腰を浮かせることしかできない。

「もう欲しくなったのかい」

「っあ、ち…、ちがっ、」

「違う、のか?」

意地悪な笑みを口元に浮かべてエルヴィンは胸を弄っていた手を止めnameのショーツに指を這わせると、真ん中の部分を指の腹でこする。布越しにぐちゅり、と淫靡な音が鳴り、赤面するnameを他所に温かな粘液が染み出してきた。
その音をわざと聞かせるように指を動かすエルヴィンに、nameはイヤイヤをする子供の如く首を振る。
辱められることに慣れていない、というよりもまず男にじっくりと味わわれることに慣れていないのであろう。nameの顔は可哀想な程に赤く染まり、ぎゅっと瞼を閉じた眦には涙すら光っていた。けれどそんな彼女の初心な反応はただエルヴィンを煽る材料にしかならない。何をしてでも己の色に染め上げたい、滅茶苦茶にして己だけを感じさせたいという雄の征服欲が頭を擡げ、エルヴィンの腰の辺りで渦を巻く。

「える、び…」

しかし途切れ途切れに名前を呼ばれ、先程までの黒い感情は霧が晴れるようにあっという間に消え果てた。小さな身体を震わせて己の愛撫に従順に反応するnameに、どうして酷いことができようか。きっと自分はこの女をとことん甘く抱くだろう。そんな予感にエルヴィンは「らしくないな」とひとり胸の中で笑うのだった。
nameの気を紛らわすように唇を啄ばみながら、そっとショーツをずらして指を添わせる。そこは十分に潤いを湛えていた。割れ目の周りをなぞられては薄く唇を開き、溢れた体液を充血したクリトリスに塗られてはその唇をぎゅっと噛み締めるname。
彼女の小さな手がシーツを掴んで出来た陰影を眺めながら、エルヴィンは日頃の彼女を思い出す。春に咲く花のように可憐で嫋やかなnameが、今自分の腕の中でこんな痴態を晒しているとは。あまりのギャップに軽い目眩すら覚えながらエルヴィンはズボンの留め具を外した。衣擦れの音が響き、とろりとした表情を浮かべていたnameがハッと我に返る。首を浮かせて見た先には、シャツは着たままに下半身だけ衣服を脱ぎ去ったエルヴィンの姿がある。
見なかったふりをして口を噤んでいるnameに、なんという可愛らしい反応をするんだという表情でエルヴィンは眉を下げた。築き上げた自制の壁の一角が、ぼろぼろと崩れる音がする。一度ヒビの入った壁が崩壊するのは時間の問題であるということを彼はよく知っていた。
怖がらせないように先端を割れ目に触れさせる。薄い茂みの向こう側はてらてらと濡れていた。はじめから挿入するのではなく、勃起した性器をnameの割れ目にぬるぬると擦り付け濡らしてゆく。敏感な部分がペニスに擦り上げられるたびにエルヴィンの頭上からは微かに吐き出される吐息が降り注ぎ、脚の付け根の潤いは増していった。
そろそろいいだろうとnameの脚を持ち上げ開かせる、しかしnameは「あっ、あの…」と縋るような視線でエルヴィンに訴える。

「君は案外意地悪なんだね」

「えっ?」

「今日が誕生日の私が唯一欲しいと願うものが目の前にあるというのに、君はお預けだと言ってくる」

わざと非難がましい目で見れば、エルヴィンが思った以上に慌てたnameはがばりと起き上がり彼に抱きついた。

「ごめんなさい」

胸に顔を押し付けているせいでnameの声はくぐもっていた。力の入った薄い肩をエルヴィンがなでればびくりと震え、彼の背中に回した指に力が込められた。それはまるで幼い子供のような抱きつき方だった。

「すまない、狡い言い方をしてしまった」

こっちを見てご覧。と言ってnameの顔を上げようとする。恥ずかしがって拒むのを優しいキスで懐柔させる。ようやく上げられた面に浮かぶ恥じらいと申し訳なさが入り混じった表情に、エルヴィンはもう我慢ができないとnameの両肩を掴み仰向けに押し倒す。潰れる程に抱きしめこれでもかと言う程にキスをして、砂糖菓子の大砲で撃ち抜かれたような顔をして喘ぐnameの耳元に唇を寄せると「悪いが、手加減出来そうにない」と囁いた。
余裕のない彼の掠れた声に、nameは下腹部が切なく疼くのを感じた。じわりと、身体の奥からあたたかな水が溢れ出し内腿を濡らす。口に出しては言えないものの、早く欲しいと乾いた唇がそう訴えていた。
脚を開きペニスの先があてがわれると、愛液と先走りが混ざり合い水音を立てる。柔らかな左右の肉を押し開き、エルヴィンはゆっくりと腰を進める。
ずれたブラから覗く柔らかな乳房の感触を手の平で味わいながら、挿入した性器で最奥を穿つ。全てを収めれば、nameは腰を浮かせて涙を零した。身体の中で熱く脈打つ男の性器は彼女の中の様子を伺うように、うねる壁を堪能するかのようにそのままじっと動かない。もどかしく思うnameの身体は彼女の羞恥心など御構い無しに入口をひくつかせ、膣壁はペニスを誘うように蠢いている。その動きに合わせるようにして時折跳ねるエルヴィン自身。
悩ましげに寄る眉が刻む皺に口付けてエルヴィンが腰を動かせば、静かな部屋に粘膜と肌が擦れる卑猥な音が響き出す。同時にあがる甘い嬌声。

「こら、噛んではだめだ」

「っや、あ…」

一声上げて自分の声に恥ずかしがる恋人を愛しく思いながら、口元に持って行かれた手をどけてやる。白い手の甲に赤く残った歯型を舌でなぞれば、それすらも性感を刺激するのかnameは顔をのけぞらせて喘いでいた。
ゆっくりとした律動は互いの身体にもどかしい熱を生む。

「あっ、えるび…っ」

「なんだ?」

両手を伸ばしたnameに応えるように上半身を彼女の身体に重ねると、しなやかな腕がエルヴィンの首に回された。耳元に響く嬌声の合間にnameが言おうとしている何かを、エルヴィンは優しく引き出してやる。ねだってほしい、己を欲してほしいと強く思う。

「…すき、っ、あ」

桃色の唇から吐息交じりに零れたその言葉の威力たるや絶大だった。頭の中は一瞬にして真っ白になり、自制の壁は盛大な音を立てて崩壊し去った。
気が付けば夢中になってnameに腰を打ち付けていた。先程贈ったベビードールはくしゃくしゃになって胸元までたくしあげられている。高く掲げられたnameの脚は膝をエルヴィンの肩にかけられ、その爪先は速いリズムで空を切っていた。
身体を半分に折られるような体勢でもはや犯されているといってもいい激しさで抱かれるnameは、羞恥心など到底追いつくはずもなくあられもない声を響かせる。
奥深くまで貫かれたかと思えば緩く入口を擽られ、切なさと快感のあまりしがみ付いたエルヴィンの肩に額を擦り付けた。
坂を転がるような悦楽から振り落とされないようにnameは脚をエルヴィンの腰に絡ませる。好き、好き、エルヴィン、好き。壊れたゼンマイ人形のように愛を訴える彼女の唇を食みながら、ああ、私もだよ、愛している、と、うわ言のように睦言を繰り返すのだった。
互いの性器の感覚は鋭敏になり、熱を持ちすぎたそこはもはや溶け合ってひとつになっている。
捲り上げられたベビードールはエルヴィンの身体に押しつぶされ、二人の汗でしっとりと濡れていた。薄衣が身体に擦れるのですら残った理性をすり減らしてゆくのには十分な刺激だった。

「name、っ」

加減は出来そうにない。口にするのももどかしく、エルヴィンは開き切ったnameの唇から直接言葉を流し込む。優しくだなんて、ハナから無理であったのだ。溶け落ちた理性が背中を伝う。額を合わせ、覗き込んだnameの濡れた瞳に自分が映っていた。膜を張った涙に映る焦燥に駆られたような表情のエルヴィンは、ぎゅっと瞼をnameが閉じるのと同時に柔らかな頬を転がり落ちる。
小さな爪がエルヴィンの背を抉る。息を飲む音。恍惚に半ば意識を飛ばしそうになりながら、エルヴィンは内腿に力を入れた。
恐らく一度ではすまないだろう。本当に抱き潰してしまうかもしれないな。ほんの少しだけ残された理性の片隅で考える。だからどうだと言うのだ。今日は自分の誕生日なのだから、と。
口の端を緩ませ、エルヴィンはnameの頬を伝うぬるい涙を吸い上げた。

(141014)
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