さようなら

(モブキャラ♂×スミスの描写有り)(閲覧注意)

部屋に満ちた目眩がする程濃い雄の匂いに私は恍惚とした表情で舌舐めずりをした。とんでもなく柔らかいソファに身体を沈め、目の前で繰り広げられる背徳の光景に息をするのも忘れてしまいそうだった。手元のワインを一口煽れば、アルコールが体内を駆け巡る音が聞こえるような気すらする。
部屋全体がとろりとした蜜のような気配で包まれている。それを発しているのはベッドの上で痴態を晒しているエルヴィン団長だった。裸よりも恥ずかしい格好をさせられて、だらしなく後ろの穴から白濁を流している男がまさかあのエルヴィン・スミスだとはにわかに信じ難い。が、事実そうなのであるから世界と言うものは本当に残酷で罪深い。
部屋の中央に置かれたベッドを挟んで私と対角にあるソファに腰掛けている男は先程エルヴィンとの行為を終えて満足そうに汗を拭いている。下劣な下半身をちらと見て、私は再び団長に視線を戻す。
全裸に立体起動装置のバンドだけを身につけさせられ、手首を後ろ手に縛られた様はいかにもそういう趣味を持った輩が好き好みそうなものだった。
狭い壁の中、特殊な性癖を持つものは少なくはない。貴族や王族、兵団においてもそれは同様だった。大っぴらに誰も口にはしない、しかしまことしやかな噂はあった。調査兵団団長が文字の如く「身体で」ある程度の資金源を得て、他兵団や反対勢力から風当たりを弱めている、と。まさか、と言うもの者もいたし、やはり、と言う者もいた。
貴族出身者にして調査兵団に所属している私は、一族始まって以来の奇人と血縁者達に認識される鼻つまみ者であった。しかし貴族階級や王族系列者と多少の内通関係にある私はどちらからも何かと重宝されており、一般兵はおろか上層幹部組ですら同行できない「秘密の」会合に度々ついて行くことが許されていた。
今宵の団長は既に先客の相手をし、今しがた二人目の精をその後ろ穴に受けたところであった。けれど可哀想に自身の解放は未だ叶っていない。後ろ手を縛られている為、肩と膝で身体を支え、顔はあちら側に向けられたままベッドに沈んでいた。太く長い性器は臍に着きそうな程に勃起し、ここからでもわかるぐらいの先走りを先端からトロトロと溢れさせていた。シーツに糸を引くように垂れた体液は、もう随分な染みをそこに作り出している。
可哀想な団長。身体の自由だけでなく、威厳もプライドも全て奪われてこんな格好をさせられて。
三人目の男が立ち上がる。ネズミのような風貌をした、気の小さそうな男だった。ベッドに上がるときょろきょろと辺りを見回し、己の性器を数度手で扱くと団長の閉じ切っていない窄まりに先端をあてがう。まだ挿入すらしていないというのに男の息はあがっていた。長く息を吐くと、身体の割りに大きなペニスの先端を穴に埋める。
この部屋は霧の立ち込める森のようだった。音の距離感がつかめない上に酷くこもって聞こえるのだ。
う、と苦しそうな二人の男の喘ぎ声が響く。ぢゅぶ。ぐちゅ。続いて卑猥な音。ゆっくりと中を味わうように腰を進めた男は全てを収めると天井を仰いでそして狂ったように腰を振り始めた。攻めている男の方が甲高い嬌声をあげている。滑稽だった。激しく腰が打ち付けられるたびに団長の性器は切なそうに揺れ、溢れる先走りが雫となって撒き散らされる。
団長の表情はここからではわからない。一体どんな表情で彼は犯されているのであろうか。あの綺麗な瞳に涙を湛え、悩ましげに眉を寄せている?それとも望まぬ恥辱に無表情を決め込んでいる?それでも抗えない快感に、顔を歪ませている?
そのどれもが彼なのだ。
「うわぁ」という情けない絶叫と共に男が果てた。団長の腰に縋り付き、がくがくと腰を小刻みに揺らしながら射精している。全てを出し切り芯を失いかけた男の性器がずるりと抜けた。後を追うようにして白濁が溢れ出す。それを見た男はベッドから降り、今初めて私がいることに気がついたような表情を浮かべると慌てて衣服を身に付け部屋を後にした。
先に行為を終えていた二人も立ち上がり、ベッドに臥せっている団長の尻を撫でながら「エルヴィン君、希望は良きに計らうよ」「はっは、それでは、また」と、ねっとりとした声で言うと、離れた場所にいる私を一瞥して「後は頼むよ」と言い放ち部屋から出て行った。
しん、と静まった部屋には団長の掠れた呼吸音だけが響いていた。私は立ち上がり、彼の元へ行く。肩を掴んでこちらを向かせれば、乱れた前髪がはらりと落ちた。じっと私を見つめる青い目。かまされた猿轡にはじっとりと唾液が染み込んでいた。

「団長、大丈夫ですか」

「……」

「大丈夫じゃ、ないですよね」

口を塞ぐ猿轡を外し、口から溢れた唾液を拭いてやる。そして私は膝をついたままの彼の横に腰を下ろして、未だヒクついている後ろの穴をそっと指で触れてみる。身体が強張るのが見て取れた。ゆっくりと円を描きながら撫で続ければ、緩んだ窄まりから混ざり合った男たちの精液が流れ出す。排出される感覚に、団長の尻が小刻みに揺れていた。羞恥心など今更不要だというのに。
睾丸を伝いぽたぽたと垂れ落ちるそれは灰色の染みをシーツに作る。一通り出切ったのを確認して窄まりに中指を入れる。つい先程まで男を咥え込んでいたそこは難なく私の指を根元まで飲み込んだ。壁を嬲るように指を出し入れすると、奥に残った残滓が指に絡みついては手首を伝う。

「name、やめ…ろ」

「やめられません」

「もう、」

吐息交じりにそう言って彼はゆるく首を振る。もう、何なのだろう。けれど事実、言葉とは裏腹に彼の身体は欲している。それが全てだった。だから私は指を抜かない。
そして、ふるふると震えながら透明な液体を流し続けているペニス握る。びくりと手の中で跳ねたそれは呆気なく射精してしまった。

「随分我慢してたんですね」

ごろりと仰向けになって肩を上下させながら精液を滴らせている団長の性器の先端を口に含む。息を飲む音が聞こえた。中に残った最後の一滴までをも吸い上げれば、団長は低い唸り声を発して再び性器を硬くした。
胸元のポケットからナイフを出して両脚を投げ出している団長の腕を縛っていた縄をブツリと切る。先方の趣味なのか、それとも彼が最中に暴れるのを危惧してなのか、縄はよほどきつく結ばれていたらしい。紫色に鬱血した皮膚が痛々しかった。そんなことをしなくとも、ここでの団長はいつだって従順なのに。
ぷっくりと膨らんだ乳首。快感を得る為だけにあるこの男の乳首を爪で弾く。苦しそうに青い目が歪み、唇は何かを言おうとするかのように薄く開いた。
筋肉のついた胸板を愛撫する。肌の感触を味わいたくて目を閉じれば、瞼の裏には先程まで男に犯されていた団長の姿が焼き付いていた。ゆっくりと目を開き、彼の大きな身体を仰向ける。ぎし、と柔らかなスプリングが音を立てて軋んだ。
ベルトを巻かれた身体は綺麗に引き締まり、仄かに灯った蝋燭の炎は彫刻品のような芸術性をその表面にもたらしていた。だからこそ増す背徳感。
しっとりした茂みを手のひらで撫でれば、そこからそそり立つ性器は彼の身体から独立した何か別の生き物のように時折大きく跳ねるのだった。亀頭の割れ目からはまた、透明な液体が滲み出ている。私はそれを絡め取り、すべすべとした亀頭に塗り込んだり硬くなった陰茎に絡めたりして団長の反応を観察する。
呼吸を荒げる団長の目元はほんのり赤く色づいていた。日頃目にする凛々しさはすっかり影を潜め、今あるのは与えられる快感を全身で享受する剥き出しの欲望だった。こんなことは望んでいないと頭では思っているはずなのに、身体はもう知ってしまっているから。肉体は精神など凌駕しない。
硬くなった小さな乳首を口に含む。舌先で転がし前歯で甘噛みすれば、引き結ばれていた唇が綻んで吐息が漏れる。執務室では決して見ることのできない彼の顔。何故だろう、この部屋で全てを解き放つ彼の方が自由な心を手にしているように見えるのは。私の心が歪んでいるせいなのかもしれないが。
ぱちん、ベルトを弾けば団長は腰を弓なりに反らせて喉を剥く。可哀想な程に勃起した性器が蝋燭の明かりに浮かび上がっていた。
私は彼の上に跨ると硬くなったペニスをショーツ越しの恥丘で押し潰す。身体の奥からじわじわとぬるい液体が染み出して布地を濡らしてゆく。

「団長、挿れたいですか」

「…っ、…あ」

伸ばした両手で臍から胸、そして喉元まで手の平を滑らせる。浮いた首の筋を撫で、喉仏を押すようにして首をゆるく絞めれば苦しげな呻き声が喉の中で鳴る。糸を引いた先走りが腹の上で玉になっていた。
見せつけるようにショーツを脱いでそれを彼に向かって投げ付けた。何も言わない彼は顔の上に乗ったそれを取ると床へと放った。
ベッドに膝をつき、割れ目に亀頭を押し当てる。ちゅく、と水音がした。焦らしながら先端を愛液に濡らし、亀頭の先だけを挿入する。

「欲しいって、言ってくださいよ」

「……」

誘うように顎を小さくあげて彼を見下ろす。刹那、鋭い光が青い瞳の中を走るのを見た。
大きな手が腰を掴んだと思った次の瞬間には深々と身体を貫かれていた。背骨を伝い、子宮から頭の先まで痺れるような快感が駆け抜ける。ちかちかと星が舞う視界の向こうで不敵に笑う団長がいた。

(141015)
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