さようなら

リヴァイ、しよ?
そう言って仕事から帰ってきたばかりの俺がネクタイを取るか取らないかのうちに背後から腕を伸ばしたnameは、「したいな」でもなく「してほしいの」でもなく、ましてやはにかむような恥じらいもなく、そのままするりと俺の胸の中に収まると、ただ誘うような上目遣いで俺を見上げていた。
熱を孕んだ視線は少しだけ潤んでいて、身体からは女の匂いがふわりと香る。それだけで俺は「ああ、濡れている」と思うのだった。目の前に立ってゆるく口の端をあげているnameのそこは濡れている。きちんと言葉を脳内に浮かべれば、己の性器はいとも容易く芯を持つ。
ふっくらとした俺の付け根を目ざとく見つけたnameは手の平をそこに這わせてゆるゆるとさする。絶妙に形を合わせた柔らかな手に包まれて少々苦しくなった俺が眉間に皺を寄せれば、「ふふ」と小さく笑んだnameに口を塞がれた。
解いたネクタイでそのか細い手首を縛ってベッドに転がしてやろうかと思うものの、身体はnameの更なる愛撫を欲しているのだから世話ない。
は、とどちらのものともつかない吐息を合図にnameの腕を掴んでもつれるようにしてベッドに転がれば、組み敷く前に腹の上へと乗られてしまう。
に、と口角を上げたnameは後ろ手に俺の性器を撫で始め、それが十分に硬くなると「苦しそう」と言ってベルトを外すと下着ごとズボンをずり下ろす。ごくり、唾液を飲み込む喉が音を立てた。
こんなんにしちゃって、リヴァイやらしい、舐めていい。nameの吐く言葉は蜜となって唇から滴り俺の身体にとろりと垂れ落ちる。体表を覆うように流れ続けるそれは、やがて俺の呼吸すらも奪うほどだった。
勃起した性器が口腔粘膜に擦り付けられ、熱い舌がペニスの裏を這い敏感な先端をぐるりと一周する。びくびくと痙攣するペニスをなにか自分とは掛け離れた別の生き物のように感じながら、それを女の目つきで強かにいたぶるnameを眺めた。
いつからnameがこんな風になってしまったのか、けれど彼女をこうしてしまったのは他の誰でもない俺なのだ。
「ベッドじゃなきゃやだ」「電気消して、おねがい」「そんなに、しないで」「恥ずかしいから、っ」不慣れな快感に翻弄されていた頃のnameの姿が脳裏をよぎる。これまで首に回ったか細い手首や、シーツを握る小さな手はいまや、俺を包み握り導くものとなっていた。
口の周りを唾液に濡らし、nameはちろりと赤い舌を覗かせる。手の平を腹に乗せ、伸びをする猫のように身体の前面を俺の胸板に擦り付けると、蠱惑的な瞳を揺らすのだった。焦らすような、誘うような視線に身体がひりつく。たまらず腕を伸ばして乳房を掴めば、深く深く唇を割られた。
自分で下着を脱ぐことさえ拒んでいたnameが、俺の腹上で見せつけるようにしてショーツを下ろしてゆく。
つ、とショーツと陰部を繋ぐ透明な線が見えた気がして、俺は頭がくらくらとした。腕の中で恥じらいの塊と化していたかつてのnameはもはやその衣を脱ぎ捨て、痴態に満ちた生身の身体で俺を喰らわんと、いや、支配せんとしているのだ。
主導権を握られるのは屈辱だった。勃起した性器にnameの手が添えられ割れ目へと導いてゆく。先端がぬるりとした肉に触れたかと思えば感触を試すように亀頭だけが咥えられ、軽く上下に揺すられた。剥き出しの陰茎がやけに寒いと思った。早く全部挿れろ、俺は目で訴える。
真っ直ぐに伸ばされた人差し指が伸びてきたかと思えば、ワイシャツの上から乳首を爪で引っかかれた。甘い疼きのような感覚に、性器の付け根が切なくなった。こんな感覚を、以前の俺は知る由もなかった。与えるばかりで、与えられるなど思うことすらしなかった。だからこそ。屈辱は甘美な快感へと変わりゆく。nameもそうだったのだろうか。
そう遠くはない過去のnameを思い出していると、ずぷりと根元まで性器がのみ込まれた。先端を包む柔らかな肉壁と根元を締め付ける圧迫感に、俺はたまらず喘ぐのだった。
それを満足そうに見下ろすnameはゆっくりと腰を使い出す。仰け反った頭を元に戻せば、開かれた脚の付け根から出入りする性器がよく見えた。ぬらぬらと光るそれが膣に収められるたびに、nameの中から湧き出すぬるい体液が入り口から溢れ出す。
自分の動きだけではもどかしいのか、俺の腕を取ると自身の腰に導いた。されるがままに薄い腰を掴むと、ゆっくりと下から突き上げた。
弓なりに反ったnameの身体。柔らかな乳房が揺れていた。思うように動けないのが癪で上半身を起こしnameと向かい合う。尻を掴み乱暴に揺すれば伸びてきた腕が俺の首に絡みつく。胸板に押し付けられた乳房の頂で乳首が硬くなっていた。

「リヴァイ、もっと」

「は、っ…ねだってやがる」

唇を塞がれて呼吸が止まる。部屋中に濃い香りが満ちていた。研ぎ澄まされてゆく感覚。輪郭を汗が一筋伝った。
離れてしまわないようにnameの身体を抱えながらベッドに押し倒す。これでやっと自由に動ける、はずだというのに、何故か主導権が己が手の内にあるような気は依然としてしないのだった。
釈然としない思いをいだきつつ、nameの脚を高々と掲げる。腰から半分に折られたnameは結合部を俺に晒しながら、甘い声を上げていた。
見えるか、出入りしているのが、こんなに濡らしやがって。
囁けば膣がペニス締め上げる。
やだ、やだ、そんなこと言わないで。
心からの拒否ではない。昂らせるための甘言。耳から入った言葉が俺の中を満たしてゆく。腰を振るたびに、腹のあたりが水を飲み過ぎた時のようにちゃぷちゃぷと音を立てているような気がした。
下から掬うように乳房を包み、押しつぶすように揉みしだいた。指先で頂を嬲るたびにnameは腰を震わせた。限界まで開かせた割れ目からは愛液が溢れ尻の割れ目を伝っている。
涙が、見えた。いや、違う。あの、羞恥の結晶のような涙ではない。愉悦に浮かぶ、押し出されるかのような、涙。舌先で舐めとれば、じわりと塩の味が広がった。
焦らして請わせて壊れるほどに抱こうとしたのだ。それが結果としてこうなった。焦らし焦らされ、請い請われ、互いの全てを曝け出し殴りつけるような暴力的な愛を持ってして交わって、何もかもを出し尽くして抜け殻のようにシーツを揺蕩う様はまるで、まるでなんなのだろうか。そのように交合する男女は、雌雄は、俺たちの他に果たして存在するのだろうか。

「リヴァイ、」

「っ、く…」

nameの脚が俺の腰を引き寄せる。もっと、もっと奥まで。濡れた唇が告げる。身体が燃えそうだった。
唇を引き結んだのと同時に、nameの指先に乳首を弾かれる。ひっ、と出したことのない女のような声が出た。それが最初、自分の声だとは思えなかったし、信じられなかった。一瞬nameは動きを止め、格好はそのままに目を丸くすると喉の奥で意地悪そうに笑んでいた。

「て、めぇ…」

「可愛い、リヴァイ」

優越感のような色を滲ませながら、脚に力を込めて俺に腰を使わせる。妙な声を出させられた悔しさで俺はnameの身体をひっくり返すと背中から愛情にほんの少しの暴力を溶かすようにして犯した。
肩甲骨の窪みに沈む影を指先でなぞる。過敏なまでに反応する身体が愛おしくもあり、空恐ろしくもあった。こうして覆いかぶさり揺さぶるのは自分の筈なのに、全てを包まれて転がされているように思えるのだ。
剥き出しのうなじをこれでもかと吸い上げて、悪足掻きのような赤色をそこかしこに散らす。乱れた髪を耳にかけようとしたnameの指先で、形のいい爪が瞬間輝いた。

(141105)
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