さようなら

膝の裏に鼻先で触れる。柔らかな女の皮膚。太陽に当たらないその場所はいつもひんやりとした香りがする。
ベッドの上で仰向けになっているnameの右脚の踵と脹脛に手を添えて、陶器の釉薬の塗り具合を検分するように頬を擦り付けた。やだ、とnameが微かに抵抗する。nameの「やだ」は「もっと」でもありその先を促す合図でしかない。薄い皮膚を啄ばみ、しなやかな筋肉のついた脹脛にキスをした。手の平でそっと撫でれば腰がしなる。踵。木の実のように小さく愛らしいnameの踵は窓から差し込む月明かりに照らされ青白く輝いていた。偶然の産物にしては出来過ぎの脚の末端で、待ち構えるようにして五つの爪が静かに俺を見下ろしている。
親指を、食む。関節の皺に舌を這わせ、艶やかな爪に歯を立て、そして指と指の間を舌先で割れば荒い吐息と共にnameの手が伸び俺の髪を乱雑に乱した。
誘うような拒否。上目でnameの表情を見れば、眉間に皺を寄せ切なげに目を閉じている。蠱惑的だ、と思う。俺の上に乗って更に欲しがる態度をわざと見せる時よりも、こういった意識の外で見せる表情の方が存外どきりとさせられる。尖らせた舌で足の裏に円を描く。ミケ、と掠れた声が俺を呼ぶ。
右脚を抱く。すべやかな肌に頬を寄せながら割れ目に指を沿わせればそこは十分に濡れていた。和毛ですら、濡れていた。指先を動かすたびに音がして、nameはそれを酷く恥ずかしがる。
やめて、そんなこと。と顔を両手で覆う様が初心だった。例えこの後どれほど奔放に乱れようとも。その落差が、たまらないのだ。手の動きを止め両脚を持ち上げる。静かに暴かれた場所を見下ろせば、nameは不安気に睫毛を震わせ此方を見上げている。
伸びてきた手に触れられる。曖昧だった熱が確かな形を持つのに決定的な動き。硬くなった感触に戸惑うことなく、布地の奥に潜むものを欲しがる指先。指がかけられ、引っかかりながら脱がされた下着を自ら全て脱ぎ去って背後に投げる。
直に撫でられ包まれて、先端が濡れる気配がした。柔らかな指の腹が浮いた血管を撫であげて、そしてたどり着いた場所でぽつんと滲み出ている一滴を塗り広げる。は、と息が漏れるのをnameは聞き逃さない。
つい先ほどまで顔を覆っていたというのに、もうこの表情で挑んでくる彼女の鮮やかなしたたかさ。愛らしい女の陰に潜む艶やかな夜の顔を俺だけが知っている。
のびやかな猫のようにnameは気侭で、だからといって何処かへ行ってしまうわけではなくきちんと俺の目の届く範囲でのびのびとしているし、無論一番居心地がいい場所がここであるということを彼女自身理解している。
「ミケ、ねえ……」
輪を作った指が緩く上下しだす。nameの声は少し鼻にかかっていた。「やだ、」の先に行ったnameは脚を使って俺を引き寄せる。淫らでいて、かつ高貴だと思った。
恐らく俺は喘ぐことになる。それでも最後には、小さく背を丸め切ない声を上げるnameが必ずこの腕の中にいるのだ。必死になってしがみ付き、唇をせがみ、背中に爪を立てる。そんなnameの姿を想像すればぞくりと腰のあたりが疼くのだった。
月光にほっそりとしたnameの脚を掲げる。皮膚の下に青白く潜んだ静かな血管を見つめて、口付けた。ん、と控えめな声が上がる。name。名前を呼べば、柔らかな手の平に込められた力がきつくなった。

(150317)
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