2018

脱ぎっぱなしの着物は布団のまわりに散らばったままだった。
私の髪も、宗三の髪も、乱れ、ほつれ、絡まり合って朝を迎えようとしていた。宗三の体温は心地いい。ずっとこうしていられたらいいのにと何度思ったことだろう。交わり、唇を重ねるごとに深まってゆく情愛。異なる色の瞳に映る自分の顔は悲壮の影がさしていた。
静かな寝息を頭上に聞きながら、私は置いてある彼の刀をじっと眺める。鞘に納められてなお、ひきこまれるような妖しい美しさをはなつ刀だった。
ゆるく私を抱く腕からそっと抜け出し、それを手に取った。ちらりと背後を見たけれど、宗三に起きる気配はなさそうだった。夜中まであれだけ愛し合ったのだから、きっと疲れたに違いない。情事の最中に宗三が見せる切ない表情を思い出して私は甘いような、切ないような気持ちになった。
右も左もわからなくなるような、現世でよくある盲目的な恋ではなかった。だからこそ、私たちの結びつきは強固だった。出会い、惹かれあい、愛し合った。当然のことのように。立ちのぼる赤い焔に身を焦がすのではなく、青い静かな揺らめきの中に私たちは常にあった。
宗三の、私の髪を梳く指。伏し目がちな睫毛。細い身体。宗三を構成する全てが尊かった。言葉とは裏腹に、宗三も私を慈しんでくれていた。薄絹に包まれたような、淡い光さす世界で私と宗三は呼吸した。
裸のまま、私は刀を手に取る。ずしりとした重たさが伝わってくる。こんなにも重たいものを、宗三はいつもやすやすと振るっているのだ。細い見た目に反して、彼は案外力がある。
またしても宗三の、ほっそりとした腕についたしなやかな筋肉の軋みを思い、唇を噛む。まだ、身体の中には彼の名残があった。
静かに刀を抜く。間近で見る刃は一点の曇りもなく輝いていた。
ねえ、宗三。私は唇だけで彼を呼ぶ。
私はあなたに終焉を与えられたい。ずっとそう思っていた。そしてそれと同じぐらいの強さで、あの刃をこの身に受けたいと憧れた。
いまが愛おしいからこそ、幕引きは自分の手でしたかった。本当は、あなたの手にかけて欲しかったの。けれど宗三は優しいから。私を殺めてはくれはしないから。

「それすらも、愛おしいですか?」

頸部を包む両手の冷たさは、手のひらにあるそれと酷似していた。

「うん、とても」

宗三は薄く笑い、私の手から刀を抜いた。いけませんよ。彼の冷たく長い指が首の薄い皮膚に食い込んだ。そんなことはいけません。ゆるりと彼の手から力が抜け、宗三が私の背中に覆いかぶさる。やわらかに垂れた髪。

「夜が明けるまでもう少しあります」

引きずり込まれた布団の中に広がるぬるい空洞に、私たちはふたりでもぐり息をひそめた。
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