2018

暖房の効いた俺の部屋。ほとんど終わらせてしまった課題をわきに寄せ、nameは寝そべって漫画を読んでいた。右足を折ってぶらぶらさせて、時折眠たそうにあくびをしている。黒いタイツから少しだけ透けた肌色とやわらかそうなふくらはぎのいやらしさに、俺はムラッときそうになって目を逸した。別に、逸らさなくたっていいのに。タイツの下の、白い肌なんて見飽きるほど見ているんだから。ずっと、ずっと昔から。

「なぁ、お前メシどうすんの」

「こっちでよばれてこうかな」

「おばさんにちゃんと言っとけよ」

「ほいほーい」

適当な返事をしながらnameは傍らの携帯電話を手に取る。「あ、もしもし。うん、そうそう。あはは、せいかーい。うん、伝えとくね。ん?うん。もうほとんど終わったよ。優秀な先生のおかげ」そこでnameは振り返って俺を見て笑う。「ね、鉄朗センセ?」なにが先生だよ。と思いながら俺はペットボトルに口をつけた。
つーかnameの母親はそれでいいのかよ、それで。だって考えてもみろよ。幼馴染とはいえ年頃の男女がだ、こんな……。そこまで思って俺は心の中でため息をついた。そんな風に思っているのは俺だけじゃないか、と。別にnameは、小学生の時と同じような気持ちでここにいるはずだ。じゃなかったらこんな無防備な格好をするわけがない。寝そべっているせいでずり上がったスカートの裾からは、太腿のふくらみが覗いている。
ごくりと唾をのみ込んだら音が鳴りそうで、俺はまたペットボトルに手をかけた。

「そんな喉乾く?」

「まあ、乾燥してるからな」

それっぽい理由をつけてお茶をあおった俺にnameはにじり寄ると、「私も」と言ってペットボトルを奪い取る。「美味し」そう言って濡れた口の端を舌で舐めた。屈んでいるせいでニットの胸元から胸の谷間が覗いているのが見えた。

「見える」

胸元を手で押さえる俺を、nameがじっと見ている。予想外に何も言わないので俺は「俺だからいいけどな、それ他のやつの前でやったらお前痴女だぞ、痴女」と妙に早口で冗談を言って笑った。

「やらないよ」

nameが俺の手首を掴んで小さな声で言った。「だって、わざとだもん」さっきよりももっと小さな声でそう言ったnameの俺を見上げる顔は、こっちがつられて赤面するぐらい真っ赤になっていた。「……はい?」これはもしや。そうであってくれと思う自分をなんとかして抑えつけながら、俺はnameの次の出方をただ呼吸をしながら待っていた。

「だから、見せてるの」

「nameお前熱でも……」

言い掛けた俺にかぶせてnameは「ないよ」と言った。わりぃ。なんでか俺は謝って、やっぱりこれはきっとそういうことなんだろうな、と密かに心の中でガッツポーズをした。時期尚早でないことを願いながら俺はnameに腕を伸ばす。すっぽりと身体が腕の中に収まって、俺はその小ささに驚いた。そりゃあ俺の方がnameよりずっと背は高いけども。そういうんじゃなくて、もっと、生き物の雄と雌としての違いというか、そういう類の絶対的な差があった。

「えっと、」

「あー……待て待て待て」

nameの背中をぽんぽんと叩く。なんだろうと不安そうに揺れる瞳に、俺は若干眩暈すら覚えつつ、それでもここできちんと言うべきは自分なのだと己を奮い立たせ口を開く。

「ずっと前から好きでした」

あー言っちまった。走馬灯のように小さい時の記憶が脳内を駆け巡る。はじめから終わりまで、どの場面にもnameが一緒だった。俺はいつからこいつのことが好きだったんだろう。もっと早く言うべきだったのかもしれない。たぶんそうだ。さもなければnameがこんな手段に出ることは無かったのに。いや、まぁ健気に頑張るnameが見れてラッキーだとは思うけど。

「鉄朗、馬鹿、遅い、馬鹿」

「デスヨネー。つか馬鹿二回言うな」

今更恥ずかしさが襲ってきたのか、スカートの裾を直したり胸元をたくし上げたりしているnameを見て、俺の中のどうしようもないエスな部分がちらつきだす。きちんと整えられたVネックの谷間に指を掛けてべろんと伸ばすと、キャミソールからはみ出したブラジャーと胸が暗がりの中に見えた。「あ、ちょ、なにすんの」慌てるnameに俺はにやりと笑う。「なに、もう見せてくんないの」と。「さ、さっきのは特別」そっぽを向くnameの頬っぺたを親指と中指ではさんでこっちを向かせる。「じゃあどうしたら見せてくれんの?」と言えば、nameは耳を赤くしながらも真面目に考えている。そういうところが!可愛いんだよ!あーくそ!

「キスしてくれたらいいよ」

俺に頬っぺたを挟まれたまま、nameがようやく口を開く。こいつこんなこと言うタイプだったか?なんて思いつつ、泣きそうな顔をしているくせに妙に迫力のあるnameに圧倒されて俺は動けずにいた。予想外にnameが俺から視線を外さないせいもあった。やたら強い磁石でばちんと引き合わされてしまったみたいだった。やけに喉が渇くのは暖房のせいだろうか。指を離すと、nameの頬っぺたに指の跡が付いていた。

「マジでいいの?」

結構真剣な、というかマジな声のトーンになって、がっついてると思われなかったか心配だったけど、そんな心配よりも俺はnameの唇に触れたくて仕方がなかった。目を伏せてこくりと頷いたnameの肩に手を掛ける。抱きしめたいのか、キスをしたいのか、それとも。
え。と驚いた声をあげたnameは、俺によって床の上に押し倒されていた。俺自身もまさか自分がnameを押し倒すとは思っていなかったのだ。でも自分の下にいるnameを見ると、その身体や髪に触れたくてたまらない気持ちになった。

「て、つろう……?」

「なんつーか、言い訳するつもりはないけど、これはnameが悪い」

「悪いって、なにが」

なんだろーねぇ。そう言った俺は、たぶん今最高に悪い顔してる。しまっておいた感情がここぞとばかりに溢れ出してくるような気がした。鼻先が触れ合いそうな距離で俺はにやりと笑って、キスをする。

「……っ、」

唇ではなく頬にキスをした俺に、nameは目を見開いた。

「なに?したけど、キス」

どこにしてほしかったわけ?目を細めた次の瞬間、身を乗り出したnameの唇が俺の唇に重なった。「ここ」少し怒ったような顔で言うnameに、俺は上等、と思う。
唇の奥も、タイツの下も、暗がりの胸も、全部俺が暴いてやるから、と。
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