「万屋行くんだけど、一緒に行かない?」
「どうせ荷物持ちでもさせるんでしょう」
「それは行ってのお楽しみー」
「楽しみでもなんでもないですけど、まぁ良いですよ」
「よっしゃ」
「そのかわり、高くつきますよ?」
「身体で……払う」
そう言ってわざとらしくしなをつくったname。
「その貧相な身体でですか?冗談はやめてもらえますか」
「とかなんとか言って嬉しいくせにー」
人差し指でつんつんと胸元をつついてくるnameを無視して僕は歩き出す。本当に、この人には呆れてしまう。呆れるほどの、能天気。
「置いていきますよ」
「宗三、行く気満々じゃん!」
背後から飛びついてきたnameを引きずりながら、長い廊下を抜けてゆく。
「買いすぎちゃったかな」
「貴方、僕がいるからって重たいものばかり買ったでしょう」
「そんなことないよ」
帰り道、団子屋で休憩をとる。特に空腹を感じていたわけではなかったので、熱い緑茶を一杯だけもらった。対してnameはといえば、既に二枚の皿を空にして、今まさに三枚目の皿、つまり九本目の団子を食べ終わろうとしているところだった。
「よくそんなに食べられますね……」
「宗三の食が細いだけでしょ」
「太りますよ」
そう言えば、nameは食べ終えた団子の串を勢いよくこちらに向け「さっき貧相な身体って言ったのは宗三だよ!」と口をもごもごさせながら返すのだった。
「はぁ、まあ、そうですけど」
「宗三こそちゃんと食べた方がいいよ」
あ、おかわりお願いしまーす。と手を挙げたnameは、お茶を流し込み口の端についたあんこをぺろりと舐めた。
「見ているだけで胸焼けします」
あんこのたっぷり乗った団子がまた運ばれてくるのを見て僕は言う。
「宗三は痩せすぎだって」
「ついてるところにはついてるからいいんです」
ふん、と鼻を鳴らせば、「蜻蛉切とか岩融とか同田貫とか、見てごらんよあの筋肉を」としたり顔で言ってくる。
「筋肉馬鹿と一緒にされても困ります」
暇さえあれば身体を鍛えている彼らと同列に考えられたらたまったものではない。
「いいんですよ、僕はこれで」
「まあそうだね。宗三がムキムキになってもキモいしね」
あはは、と空を仰いで笑いながら団子を頬張るこの人間が自分の今の主だなんて。これまでの持ち主を思うとその落差たるや。
「この荷物、あなたが独りで持つには重そうですが大丈夫ですか」
「ちょっと、それはなしだよ。待って、お団子あげるから、ね?」
腰を上げかけた僕の着物の袂を掴んでこちらを見上げるname。
「あげるって、もうあと一つしかないじゃないですか」
「大事な大事な最後の一個をあげるんだよ?これまでの全部に匹敵するといっても過言じゃないよ?」
馬鹿真面目に力説するnameは、「はい」と明らかに不承不承と言った表情で団子を差し出してきた。
「いりませんよ」
「えっそうなの?じゃあ勿体ないから私が食べとくね」
僕が断るや否や、nameはパッと表情を明るくして最後の一個を頬張るのだった。
「まったく……」
「今日の晩ご飯なんだろな」
宗三は何だと思う?とこっちを見る彼女の手を取り「そろそろ行きますよ」と立ち上がらせる。
「もうちょっと休憩してから行こうよ」
「燭台切に夕飯で使う味噌を買ってくるよう頼まれたんでしょう。早く帰らないと待っているんじゃありませんか?」
そろそろ本丸では夕食の支度を始めるころだった。道草を食っていて遅れたとあればへし切に何を言われるかわからない。
「……もうちょっとだけ」
「name、」
繰り返すnameに、いけませんよと言おうとする。その僕の言葉に重ねて「だって二人っきりなんて久々なんだもん」と顔を背けながらぼそぼそと口の中で小さく言うname。
本当に、呆れてしまう。それっきり無言になってしまったnameは、つま先で足元の小石をつついている。
はぁ、とため息をついてまた腰を降ろしてしまう僕も僕なのだけれど、素直になれないのはお互いさまということで。
【きみは幸せの匂いがする】
- ナノ -