幼馴染と恋人の境界線ってなに。私が常々考えていること。
手を繋ぐ、キスをする、エッチをする。私達はその全てをしてしまったけれど、今のところ恋人ではない。
「よくわからない」
「まーたその話か 」
ベッドの中でゴロンと寝返りをうってそう言った私に、鉄朗は呆れたような声を出した。
「私達の永遠の課題だと思うんだけど」
「永遠て、また大きくでるなお前」
鉄朗の肌はすべすべしている。特に肩のあたりや腰のまわり。私はそこをさわさわとするのが好きだ。はじめのうちは無抵抗な鉄朗は、段々くすぐったくなるのかいつも途中で「やめろ」と手を掴んでくる。残念だけど、その後「同じことしてやろーか」とニヤリと笑う顔や、伸びてくる大きな手もたまらなく好き。
「難解」
「nameが勝手に難解にしてるだけだろ」
「そうかなー」
「線引きなんて意味ねーって」
「まぁ、ね」
両手を頭の下で組んで天井を仰ぐ鉄朗。昔「鉄朗」がうまく言えずに「てちゅろー」と舌足らずだった私は、いつも彼にからかわれていた。研磨も若干そうだったけれど、からかわれたのが嫌だったのかいつしか「クロ」と呼ぶようになっていた。
私達はそんなずっと昔からの知り合いなわけで。側にいるのが当たり前、という関係になるのは必然で。
「でも研磨と鉄朗はエッチしないじゃん」
「いや、なんでそうなる。つか、馬鹿だろ……」
「私も研磨とはしないし」
「……」
研磨はそういう対象じゃない。だからこそ私は悩むのだった。なんで鉄朗とはこういうことがしたくなるんだろう。
触れたいと、思ってしまう。
鉄朗もそうなのだろうか。
「鉄朗は私に触りたいと思う?」
「年頃の健全な男子ですから」
そりゃ、女には触りたいだろ。鉄朗はそう言って私のみぞおちを撫でた。
「じゃなくて、私に、だよ」
すると彼は視線を天井に向けるとしばらく黙りこむ。
「思う」
私の方を見ずに答えた鉄朗に、「じゃあnameはどうなわけよ」と逆に訊き返されて、私は口ごもってしまった。
私だって健全な年頃の女子だけど、手当たりしだい男に触りたいとは思わない。彼氏がほしいと思ったこともあるけれど、色々と考えを巡らせる前に「鉄朗がいるからなぁ」とか「鉄朗でいいしなぁ」とかばかりで、そもそも誰かを好きになることがなかったような気がする。
イチから関係を築く面倒臭さも、喧嘩や別れ話のわずらわしさも、鉄朗となら無縁に感じた。
「鉄朗以外のことはよくわかんない。でも他の人に触りたいとかキスしたいとかエッチしたいとかは思わない。だって鉄朗にしかそんなふうに思ったことないもん」
すると、鉄朗は「だろ」と何故か楽しそうに口の端を持ち上げた。
「それでいーんだよ、nameは」
骨ばった手が私の頭をぽんぽんと撫でる。何が「いーんだよ」なのかよくわからなくて腑に落ちない表情をしていると、鉄朗の腕が私を抱き寄せた。
体温の心地よさに目を閉じる。このまま眠ってしまえそうだった。実際、鉄朗が隣りにいると昔から私はよく眠れるのだ。
「幼馴染とか恋人とか、どーでもいいってこと」
「うーん」
「nameは面倒くせー性格だからな」
「失礼だなぁ」
お互いさまだっつの。鉄朗はそう笑って私の前髪にキスをした。
【ぼくは臆病な猫のままでいい】
(別に俺は幼馴染だろうが恋人だろうがなんだっていい。nameがいればそれでいい。俺はお前のことが好きだ。お前も俺のことが好きだ。だけどお前はそのどっちも知らない、気付いてない。でもそれでいい。無理矢理型にはめて、この関係がひずんで壊れてしまうぐらいなら、俺はずっとこのままでいい)
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