嫌だ、と言って困らせるのが好き。
スクアーロの困っている顔ってなんでこんなにそそられるんだろう。好きなのに、好きだから、私はスクアーロを困らせてばかりいる。
ごめんね、ザンザスに散々されているのに、そのうえ私までスクアーロに無理難題を言うなんて。
でも私のわがままはとてもささやか。
今日は一緒にお風呂に入ろう。目を開けたままキスしてくれなきゃヤダ。あのケーキ屋さんのタルトレットが食べたい。などなど。
ゲ、と一歩引いたり、ハァ?と呆れたり、馬鹿だろォ!と叫んだり。そうして、スクアーロは私のわがままを聞いてくれる。
甘やかしいなのだ。
面倒見がいい性格、というとスクアーロは怒る。そんなんじゃねぇ!ぶんぶん腕を振り回しながら。
「やっぱり今日はダメ」
「冗談はやめろぉ」
「急に気が変わったの」
私のふくらはぎに舌を這わせていたスクアーロは、撃たれた鳩のような目で私を見た。
久々に会えて嬉しいはずだったのに、なんで私はこんなことを言ってしまうのだろう。
本意ではないと踏んだスクアーロは再び私の肌に唇を落とす。私はその手をそっと外すと、彼の長い髪に指を通した。
「だめ、」
「おいおいおい」
どうすんだよコレ。と情けない声を出すスクアーロ。
「出かけるまでにどうにかしといて」
「あ?出かける?今から?」
矢継ぎ早にそう言うと、スクアーロは頭を抱えてしまった。
鎮まりたまえ。ふざけて両手をかざす私を恨めしそうに見るのに、無理矢理押し倒すことはしない。
たまに物足りなく思うけど、それはスクアーロの優しさだから。
「覚えてろよぉ」
私のおでこに人差し指を突き立てると、少し前かがみになって部屋を後にする。これから着替えて、車を表に回してくれるんだろう。「おら、早く乗れぇ」とか言ったりして。
今日はどこか部屋を取ろう。誰にも邪魔されずに、美味しいお酒でも飲みながら。
ゆるく結んだ髪をほどきながら、私も街に出る支度をするためにベッドから立ち上がる。スクアーロをあまり待たせては悪いから。
【嘘つき瞼と降伏論】
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