長谷部に膝枕をするのは、決まって彼に元気がない時だ。わかりやすいところが、また可愛らしい。髪を梳く手に長谷部の手が重なった。
「この前、あなたが戦うところを見られてよかった」
「ついてくるなんて、もうあれきりにしてください」
俺の心臓が持ちません。と長谷部は横になったまま言った。本丸では見ることのできない好戦的で、生き生きと本分をまっとうする彼の姿にはかつての主である織田信長が重なって見えた。
「かっこよかったよ、すごく」
すごく、の部分に力を込めて言った。長谷部は仰向けになって私を見上げる。不安で揺れる瞳。巴形が顕現してからというもの、長谷部は度々こんなふうになってしまう。自分が私に一番親しい者であるという自負からなのだろう。
だから私はめいっぱい長谷部に愛を注いであげる。
「みっともないと、嫌にならないのですか」
「色んな長谷部が見れて、むしろ嬉しい」
「主……」
今にも泣き出しそうに眉を寄せた長谷部は、私の腰に腕を回す。
「私はみんなの事が大切だけど、長谷部は特別だから」
「……」
ゆるゆると髪を撫でる。長谷部はなにも言わない。「私の近侍は長谷部以外いないよ」柔らかな耳たぶに触れ、戯れにくすぐった。
「誰よりも、俺はあなたを大切に思っています」
「ありがとう」
起き上がった長谷部に抱きしめられる。強く、強く。そのまま、長谷部の身体の中にずぶずぶと沈みこんでしまいそうだった。
とりこまれる。
それでもいい。長谷部の瞳に映った自分に微笑んだ。
【梔子が腐る匂いのする庭】
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