ぬるい。宗三の肌はいつでもぬるい。人肌のあたたかさには程遠い、冷めた湯のような、そんな。
私に背後から覆いかぶさっている彼の髪が背中に触れる。動くたびにそれは好き勝手にわたしを撫でるものだから、思わず身をよじって悶えてしまう。
細い腕に腰を抱えられ、首筋に薄い唇が寄せられた。掠めるほどの距離で肩甲骨から髪の生え際あたりを行き来する宗三の口許は、いつものように微かに歪んでいるに違いない。
彼の顔が見たくて首をひねれば、背後を向ききらないうちに布団へと沈められる。体勢を変えるために引き抜かれた性器の空洞が、いやに虚しく思えてわたしは彼に腕を伸ばした。
「めずらしいですね」
「もっと、こっち……」
首に腕を絡めて唇を合わせる。宗三との口付けは切ない。こんなに愛し合っているのに、彼の中の哀しみが触れた部分からわたしの中に流れ込む。幸福と、透明な哀しみは混じり合いやがてわたしを満たすのだった。
抱きしめて肌と肌がくっついた、その僅かな隙間ですらもどかしい。脚まで使って距離を縮めようとするわたしの必死さを、彼は困ったような笑顔で受け止めた。
「僕が、欲しいのですか」
落ちてきた髪を耳にかけながら彼は訊く。
「欲して、どうしたいのです」
左右で色の違う瞳に、それぞれの温度を秘めながら彼はなおも言葉を続けた。
「その先には、なにが……」
「その先なんて、いらない」
今しか、いらない。宗三の首筋に噛み付いてわたしは唸る。
彼は驚いたように一瞬目を見開き、そしてひっそりと微笑んだ。
泣きそうな顔をしているであろうわたしに頬ずりをして、これでもかというぐらいにきつく腕を回してくれる宗三の、薄い背中に爪を立てる。
痛いですよ。そう言ってくすくすと笑いながら腰を揺らし始める。
汗ばんでいるのはわたしだけで、この熱が彼にも移ればいいのにと唇を噛みしめる。もっと酷くして欲しかった。壊れるほどに抱いて欲しかった。消えない印を、刻んで欲しかった。
あ、あ、と声をあげながら、涙が頬を伝うのを感じる。奥から奥から押し出されるようにして溢れる涙が、耳に入って不愉快だった。
「name、」
美しく貴い薄桃の髪に閉じ込められて、わたしは静かに痙攣する。宗三、と呼んだ名前はひどく震えて、いまにも消えそうな灯火のようだった。
わたしの額に張り付いた髪を指先で整え、あらわれたそこに唇で触れた。そうして数度、わたしをゆるく突き上げると微かな吐息を零し、ゆっくりと横になる。
「あぁ……、」
歪な笑みでわたしを見る宗三の胸元に刻まれた印。夜の果てのようなそれに口付けて、わたしは目蓋を静かに閉じた。
【今宵の永遠を食す】
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