2014

「無理、マジでわからない」

「貴様は馬鹿か」

「馬鹿じゃなかったら今こんなことになってない」

「はははっ!name、こんな問題も解けないのか」

「いや、家康もできてないでしょ」

「ばれたか」

「貴様達の頭の悪さには呆れ果てる」

家康と私の机を隣どうし引っ付けて、その向かいには三成が頭を抱えながら座っている。頭を抱えたいのはこっちなのに。先週返された中間テスト、私と家康は仲良く数学で赤点をとっていた。やっちゃったー、と笑いながら二人で三成にテスト用紙を見せに行くと、「何をどうすればそのようなことが起こるのか」とお叱りを受けた。それでもこうして勉強を教えてくれるのが彼のいいところなわけで。
薄緑のカーテンが西陽に滲むこんな時間まで、部活にも行かずに私と家康を怒鳴りつけながらもここがこうであそこがああで、と真剣に理解させようとしている三成の顔をノートから視線を上げてこっそりと盗み見る。
不摂生のせいか青白い顔が、夕日に照らされてとっても綺麗だ。ちりちりと光る瞳に、ハッとする。いやいや、友達だし、三成は。

「おいname!聞いているのか」

「あ、うん。聞いてる聞いてる」

「では私が今何を説明していたか、言ってみろ」

「聞いてませんでした」

「……貴様っ」

「三成、そう怒るなよ」

「家康!問題を解いてからその口を開け!」

「nameは三成に見惚れてたんだ。な、name?」

「い、いやいやいや。なに言ってんの家康」

「照れるなname、ワシは見ていたぞ」

「どういうことだ…name」

「家康の勘違いだよ!三成も真面目に受け取らないで!」

私がなぜ彼を見ていたのか不思議に思っているらしい三成は訝しげな目付きで私を見てくる。くそう家康、余計なことを。

「家康、何故nameは私を見ていたのだ」

「さあなー、なんでだろうなー」

「だから、見てないって」

「顔に何かついていたのか」

解せぬといった表情で顔を両手でこする三成が可愛くて、私と家康は顔を見合わせ噴き出した。それがどうやらいけなかったらしい。

「何がおかしい!」

ガターンと椅子を倒しながら机に手を叩きつけてこめかみに青筋を立てている三成は、そんなでもやっぱり綺麗で。狡いなぁと思う私は机の下で家康に手を握られて目を丸くする。ちらりと横に座る家康を見ればにっこりと笑っていた。
絡まってゆく3本の赤い糸が見えた気がして、二人の顔を見ることができずに机の上に突っ伏した。9月15日、まだ10月にもなっていないのに開け放たれた窓から入ってくる涼しい風は火照った頬に心地いい。秋晴れの夕焼けに包まれて今日という日が終わってゆく。私たちはどうやって、また明日と言うだろう。繋がれたままの右手、頭上から降ってくる怒声、ふたつを感じながら唐突に胸がいっぱいになるのだった。

【関ヶ原2014】
- ナノ -