2014

「もとなり」

自分の名を呼ぶnameが元就に向かって手を伸ばす。ふっくらとした小さな手だった。己も遥かこのような手を有していたのだろうか。記憶を手繰るが定かではない。
高杯に盛ってあった餅を一つ取り半分に割る。小さく割れた方をnameに差し出せば、彼女は真顔でそれを受け取った。
はむはむと両手で持った餅を口に運ぶnameの横で、くつろいだ風にしてまた元就も餅を食んでいる。熱く濃い茶が欲しいと思うが、人を呼んで淹れさせるのも億劫だった。
食べ終わって手持ち無沙汰になったのか、白い粉が付いた手を弄っているnameの腰の辺りに腕を伸ばして引き寄せる。背丈の小さなnameはされるがまま元就の腕の中に収まった。
粉の付いた手を拭いてやる。小さな爪と柔らかな肉の間に挟まった粉も丁寧に拭い綺麗にしてやれば、nameはその手で存分に元就の胴に腕を回して抱きついた。
毬や紙人形が床の上に置いてある。一人の間も淋しくないよう元就がnameに与えた物だった。
うらうらとした陽射しが入るこの部屋は微かな潮騒の音も届く。束の間の平穏な日々。安息に目を閉じた元就の腕の中から静かな寝息が聞こえてくるのは時間の問題だろう。

【潮騒】
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