2014

三成の背中が目の前にある。
コンタクトを外しているせいであまりよく見えない。
裸ん坊の三成の髪を洗っている。
指の先で頭皮を撫でるようにして掻くと、指の間でシャンプーの泡がつぶつぶと弾けた。しなやかな銀の髪が私の手の中で自在に動く。それは優越と幸福だった。耳の裏を犬にするみたいにしてかりかりと掻けば、同じく犬のように小さく右に首を傾げる。
前髪も何もかも上げて、ソフトクリームみたいにしながらなおも私は指を動かし続ける。その隙に、三成の背中をじっと眺める。背中というか、襟足から尾てい骨辺りまで。
ぽくっと、赤ん坊の握りこぶしみたいな出っ張りが首の裏にある。私はそれをさりげなく押してみる。ぴくりと肩が上がっただけだった。面白いからもっと押したかったけれど、怒られるのは嫌なのでやめておいた。
両肩は綺麗な輪郭を描き、その中に肩甲骨が芸術的なバランスで収まっている。その間を真っ直ぐに走る背骨は、屈んでいる所為でいつもより少し深めにアーチを描いていた。
首の後ろのぽくっとした部分よりも、きちんとした大人の凸凹が皮膚に浮かんでいる。血色の悪い三成の皮膚をさらに漂白したみたいに真っ白な背骨のひとつひとつが息を潜めて皮膚の下にじっとしているさまを思って私はうっとりしてしまう。
頭から流れ落ちる泡や雫が不規則な軌跡を描きながら凸凹を避けるようにして滑ってゆく。
最後に男然としたごつごつの尾てい骨をちらっと見て、それ以上何も考えないようにしながら私は指先に神経を集中させた。
浴室には蒸気が満ちていて、なんだか息苦しい。湯船から立ち上る湯気に逆上せたみたいになって、私は大きく息を吸って吐く。

「どうした」

「逆上せた」

「湯船につかってもいないのにか」

「三成の背中に逆上せた」

ぼわぼわと声が響く。
三成は何も言わずに肩を竦めると、シャワーヘッドを手にとって勝手にシャンプーを流し始めた。

「あー!まだ途中だったのに」

「貴様が逆上せたと言ったからだ」

私が逆上せたと言ったから、三成は早々にシャンプーを流して風呂から早く出ようとしているらしい。甘酸っぱい気持ちで胸がいっぱいになって三成に抱きつくと、薄くて硬い三成の背中におっぱいが潰された。
私を背中に背負いながら三成は手を動かし続けている。束になった前髪や鼻の先、顎からお湯がさらさらと迸っていた。
覗きこめば、息をする為に薄く開いた唇が見えた。くっついた肌と肌の間をシャワーの湯が流れていく。脇の下から回した手で三成の臍の辺りを撫でるようしてつついた。「おい、やめろ」と言った声はお湯が口に入ったのか、少しがぼがぼして聞こえた。がぼがぼが面白くて私はやたらめったら三成をつつく。つつけばつつくほど三成はがぼがぼしたけれど、やがて静かになると、どうしたのかと覗き込んだ私の顔面目掛けてシャワーをぶっ放してきた。お湯が口どころか鼻にも入った所為で私は噎せながら涙目になる。

「ふん、懲りたか」

懲りたか、と言った三成のあそこがぴょこんとしていたので、ドヤ顔はあまり決まっていなかった。でもそれを指摘してしまったらきっと三成は怒るだろうから、私は何も言わずにそこを掴んだ。
三成の手から落ちてひっくり返ったシャワーヘッドが、床に打ち付けられてひどく大きな音がした。

【三成とお風呂】
- ナノ -