2014

家康さまはずるいおひと。
笑顔のうらにわたしなんかが決して知ることのできない暗闇のようななにかを抱えてわたしをだくから。
家康さまと向かいあわせになった私は振りとばされないようにせなかに腕をまわしてぎゅうっとしがみ付くのです。
おおきな手と、太くてたくましい腕がわたしの身体を捕まえていてくれるけど、太陽のような笑みとはうらはらな乱暴な動きをするものだから、ひっしになってわたしはひろい背中に爪をたてました。
わたしの身体が小さいのをいいことに、家康さまはわたしのお尻をつかんでかるがると上に下にと揺さぶります。
そのたびにわたしの身体は家康さまにふかくふかくつらぬかれ、びりびりと頭がしびれるように弾けます。
家康さま、家康さま。
どうした、name。
おかしくなってしまいそうです。
はは、おかしくなってみたらどうだ。
ん、家康さま、っ。
じぶんの声だというのに、それはひどくあまったるくて、いやらしいおとなの女の口元からしたたるかじゅうのようにべたべたと耳にからみつくのです。
裸んぼうの家康さまのぶあついむねに頬をよせると、ざあざあと寄せては引く白波のような音がきこえてきました。
だめだとわかっているのに、わたしは家康の皮膚に傷をつけてしまいます。
夜着をみにつけていれば縋りようがあるのですが、家康さまはそんなものは邪魔だとでもいうかのように、行為がはじまるとすぐにぬぎすててしまうのですからしかたありません。
そうして、寒いだろうからとわたしの肩にかけられた家康さまのおおきな夜着も(さきほど家康さまがぬいだばかりなので、まだほんのりとあたたかいのです)、がくがくと上下にゆさぶられるたびにずり落ちて、いまや畳のうえにおり重なってしまっています。
からだの表面はふゆの透明なくうきに撫でられさむいのに、皮膚のうち側はびっくりするぐらいに熱をはらんでいて、わたしはもう寒いのか暑いのかもさっぱりわからないのです。
家康さま、いえやすさま。
舌べらは死んだなまこのように口のなかで身をよこたえていて使いものになりません。
せんじつ膳にあがったなまこの酢和えを思い浮かべたとたんに唾がとろとろと口を満たして、はしたないことにそれがつつ、と、少し唇からこぼれてしまいます。
見つからないように家康さまのむねに顔をおしつけようとしたのですが、さすが家康さまです、しっかりとわたしの失態を見ていました。
わたしを上下させる腕をとめ、さわやかに白い歯を見せると(なんとこの場に不釣り合いなえがお!)、からだを屈めてわたしのくちびるに舌をはわせます。
ぬるい唾液を舌ですくわれ、あまりの恥ずかしさにほっぺたが溶けおちてしまうかと思うほどでした。
甘いな。
家康さまは言いますが、はたしてほんとうに甘いのでしょうか。
きらきらとした瞳をのぞき込んで考えていると、ずん、と家康さまがまたわたしのなかに深く入ってきましたので、わたしは「ああっ!」と目をみひらいて叫んでしまいます。
身体中から力が抜けてしまいそうなのに、ゆびさきだけはやけに感覚がえいびんでした。
爪のあいだに家康さまのうすい皮膚がめり込んでいます。
name、name、name。
熱にうかされうわごとのようにわたしの名を呼びながら、家康さまはたくましい腕で、むねで、身体ぜんたいで、わたしをぎゅうっと抱きしめました。
むっちりとした筋肉をまとった家康さまの身体に、わたしは息がつまってしまいます。
ただでさえはあはあと息があがっているというのに、これでは死んでしまうかもしれません。
それは、でも、もしかすると幸福なしにかたなのではないでしょうか。
すき、家康さま、すきです。
なまこが口のなかで、ししてなおのたうちまわります。
家康さまのくれるかいかん(とっても卑猥なひびきがします)と、抱きしめられて止まりそうな息に、頭のなかが白いひかりで染まってゆきます。
無我夢中でひたすらに声をあげながら、家康さまの背中に腕をまわしてしがみつくわたしを、これいじょうされてはぺちゃんこになってしまうのではないかというぐらいに力をいれて家康さまは包みます。
そのからだはごうごうと燃えていました。
じじつ、つながった部分からはとけだしたわたしたちが流れだしているのです。
もうだめだ、そうおもった瞬間に、家康さまがくるしそうに喉をならしました。
そうして、わたしの髪に鼻をうずめて腰をふかくふかくしずめると、わたしのおなかの中にはあついどろりとしたものがながくながくはき出されます。
そのあいだ、家康さまはひきむすんだ唇のすきまからしめった息をこぼしていました。
脈うちながらすべてを出しおわった家康さまのそれは、まだあつくかたいままわたしのなかに留まっています。
ひたいに張りついた髪をやさしくどけながら、家康さまはバツがわるそうにはにかむとやさしくやさしく、とろけるような口づけをしてくれました。
うらはらに、わたしを布団におしたおす手つきは、びっくりするぐらいに荒々しいのですけれど。
あ、と思う間もなくまたふかいかいらくの海にしずめられるわたしは、あぶあぶと、泳ぎをわすれた魚のように口をパクパクさせて、がくがくとゆさぶられてしまいます。
さきほど放たれたぬるい液体があふれ出して尻をつたい、布団のきじへとしみこんでゆきました。
なあ、name。
はい。
このまま、朝になってしまうかもしれないな。
えっ?
はは、嘘だ。
ん、ん、っ。
そんな顔をするな。
いえやす、さま。
ぎゅうぎゅうと頬をおしつけながら笑う家康さまは、ま昼の笑顔をうかべているのに、このよにみちる夜のようにわたしをつつみます。
だからこんなにもきもちがいいのに、わたしはほんの少しかなしくなって、でも悲しみとは別のなみだが流れてしまい、あわててごしごしと手の甲でぬぐいました。
わたしのそんなようすを、家康さまはいとおしそうに目をほそめてながめているのでした。

【きみに夜をあげよう】
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