甘い飴玉を舌先でつつく。
淡く、色とりどりだった飴玉は残り少なくなっていた。
秋だというのに雨が暫らく続く日々だった。
ひんやりとした畳に頬を押し付ける。
そこだけが、ぬるく温まっていた。
少し離れたところで三成が打ち捨てられた死体のような格好で横になっていた。
揺さぶっても無駄だろうことはわかっている。
羅紗の袋に入れられた飴玉を振る。
家康がくれたものだった。
鼻にあてれば、飴玉の甘い香りに混じって太陽の匂いがする気がした。
家康はもういないのに。
雨垂れが途切れることなく屋根から落ちている。
「三成」
「……」
「飴、あげるよ」
「要らん」
「おいしいよ」
「黙れ」
私は寝返りを打つ。
また、冷たい畳に頬を寄せる。
熱なんかないはずなのに、冷たい藺草が心地いい。
舌の上で溶けてゆく飴玉は孤独の味がした。
私と三成の中にある、家康の形をした空虚。
三成の近くまで芋虫のように這って行き、彼の手を取った。
硬い指は冷たかった。
三成の心が指先から流れ込む。
夜の始まりみたいな色をした空虚が重なった。
じゃら、と音を鳴らして飴玉を取り出す。
背後からそれを一粒、三成の口に押し込んだ。
吐き出さないように、舌の上に乗せてあげた。
私の指は三成の唾液で濡れていた。
「甘い」
「飴だからねぇ」
そう言ったきり、また黙り込んでしまった三成の手を撫でたりさすったりしてみるけれど、一向にあたたかくならなかった。
染み出してくる唾液が喉を通って、家康の形をした空洞に少しずつ溜まってゆく。
あとどれだけの飴を舐めれば全てが満たされるのだろうか。
「美味しいなぁ」
「……甘い」
また同じことを言う三成に目を細めれば、涙が一粒転がり落ちた。
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