2014

うるさい。
脳を食いつくし頭蓋の裏にびっしりと張り付いている蛆虫が、いっせいに羽化して羽ばたき出した。
視界いっぱいに広がっているのは青い空とうっとりするほどの若草だというのに、私の鼓膜は内側から揺すられ叩かれ、何億もの木々が葉を擦り合わせるようなざあざあとした音に、私は耳を押さえてうずくまる。
目をつぶっても耳を塞いでも消えはしない。
知っている。
知っている。
今まさに空には黒雲がかかり、鮮やかに香る夏草は血に染まる。
地鳴りのように響き渡る何千の足音。
柔らかな土を踏みならし、屍という名の肥しを大地に与える戦。
その真ん中で、私は頭を抱えて動けずにいた。

「死にますよ」

怒号をすり抜け、脳内に響く忌々しい羽音などものともせず、その声は私の身体にいとも容易く入り込んできた。

「光秀、さま」

「ほうら、殺らなければ殺られてしまいます」

冷たい鎌が皮膚を裂き肉を削ぎ骨を断つ音が、頭の中に木霊する。
恍惚の高笑いを響かせながら、光秀さまは人の命を刈ってゆく。
今にも頭蓋を食い破って外界に羽ばたいてゆきそうな蠅どもは、いったいどこから私の体に入り込んだのだろう。
いつの間に産卵し孵化したのだろう。
柔らかな脳味噌の上で前足を擦り合わせ、白くてまあるい卵を薄桃色の襞の間に幾つも幾つも生みつけたのだろうか。
蠅の営みを想像して、頭を抱えたまま私は笑う。

「あは、あはは」

「クク、いい声ですね」

地面を踏みしめている脚は力を入れているはずなのに雲の上に立っているようだった。
背中越しに鎌が空気を切る音がして私は目を見開いた。
蠢く無数の羽音とともに屍を超えて一歩を踏み出せば、鮮血に塗れた光秀様の銀の先が視界の端を掠めて消えた。
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