そういえばもう羽毛布団、出したんだね。
毛布に包まって膝を抱えている三成に言うけれど、彼は眠っているから聞いていない。
閉ざされた遮光カーテンの僅かな隙間から斜めに差し込む朝の光が、室内の微小な塵を白く浮かせる。
休日の日差しはなぜこんなにも優しいのだろう。
小さく寝息を立てる三成をベッドに残し、私はキッチンへ向かおうとする。
セックスをしてシャワーを浴びて、そのまま二人倒れこむようにベッドに入った昨晩。
下着も何も身に付けない自分の身体が、薄暗い室内にぼんやりと浮かんでいた。
腰に残った甘く怠い性交の余韻に溜息をついた。
私がかぶっていた羽毛布団を握る三成の手の甲をそっと撫でる。
もう十分に大人の男然とした無骨な手だというのに、縋るべき何かを常に探し彷徨う危うい指先。
爪は短く切り揃えられている。
背中を丸めてぱちん、ぱちんと時間をかけて爪を切る三成の背中を思い出す。
そろり、足をつけたフローリングは思わず出した足を引っ込めるほど冷え冷えとしていた。
もう一度布団に潜ってしまおうかと考えていると、もぞもぞと三成が身体を動かし私の手を掴む。
「行くな」
酷く掠れた声だった。
毛布に包まっているというのに、ひとたび外気に触れれば三成の指はあっという間に冷たくなってしまうのだ。
「…うん」
「name?」
「なあに」
私を呼ぶ三成の声は、土砂降りの雨に打たれた仔犬のように心細気だった。
まだ夢と現の狭間にいるのか、焦点は私の顔より少し手前に結ばれている。
「隣に、」
そう言って身体に巻きつけていた毛布を少し持ち上げ私を誘う。
私は下ろしていた足を再びベッドへと上げ、三成の隣に身を滑らせた。
冷たい手先とは打って変わった身体の熱を全身に感じながら、改めてこの男の不完全さを愛しく思う。
涼し気な目元は赤く滲み、眉間には薄く皺が刻まれている。
三成の頭を抱き背中をあやすように軽く叩いてやれば、じきに寝息が胸元から聞こえてきた。
窓際に置いたサボテンの棘が、小さく震える気配した。
午前7時半、これならまだまだたっぷり眠れそうだ。
三成のつむじに鼻を埋め、私も再び目を閉じた。
【この手で守れる全てなら】
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