2014

夜がだいぶ冷え込むようになってきた。綿を入れた布団に変えたというのに私の手足は痛いぐらいに冷たくなっていて、布団に入ってからもうずっと手をこすったり足をさすったりしているけれど、一向に温まる気配がない。
膝を抱えて目を閉じても痺れるような足先の感覚に意識がいってしまい、目は冴えるばかり。困った。
私は覚悟を決めて布団から出ると、一目散に長秀さまのお部屋めがけて走り出す。床板の冷たさに声をあげそうになるのを我慢して、足音を忍ばせてたどり着くと、ぴっちり閉められた障子の前で息と髪を整える。
そうっと手をかけ音を立てないように開けたというのに、やっぱり長秀さまは褥から上半身をむくりと起こして私の方を真っ直ぐに見ていた。まるで私がやって来ることなんて初めから知っていたみたいな、そんな目の覚め方をしている長秀さまを私はつくづく不思議に思う。
だから私はなにも言わずに長秀さまが空けてくれた布団の隙間に潜り込む。私が寝転ぶさまをじっと見ていた長秀さまも、夜の冷気が布団の中に忍び込まないよう私に倣った。見かけによらず高い体温にあたためられた布団の中はとても心地が良くて、真上を向いている長秀さまに抱きつけば人間湯たんぽかと思うぐらいにあたたかい。

「あったかい」

「nameが冷たすぎるのだ」

女子が身体を冷やすのはよくないと聞く。そう言って長秀さまはこちら側に寝返りをうった。引き締まった筋肉を覆う程よい肉が、私の身体によく馴染む。仄かに鼻を擽る香の薫りはどこまでも思慮深く、まるで彼そのもので。冬用の厚い夜着と布団とがこすれ合って時折響く衣擦れの音が、自分から布団に入っておいてなんなのだけれど、無性に私を恥ずかしくさせた。
両手を背中に回し、両脚は長秀さまの足に絡められ(!)、先程までの寒さなど何処へやら。布団の中は早すぎる春が来たかのような暖かさだった。

「長秀さま、」

愛しい人の名を呼べば、暗闇の中で長秀さまの優しい目が一対、淡く浮かんで私を見ている。夜空の静かなお月様のように。守られている気持ちになって、私はひどく安心してしまうのだ。例え今が戦乱の世だとしても、この人の腕の中に在れば怖いことなどなにもない。春の野の、微睡みの如き。
とろとろと意識が身体の外へ流れ出してゆく。先程まで目が冴えていたことなど嘘のようだった。頭をゆるりと撫でる手の心地よさに、次第に思考は輪郭を失い、長秀さまの熱に溶かされながら私は眠りに落ちていった。

【柔らかくとめどない】
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