仁王が増えた。 どういう原理か分からないが、とにかく仁王が増えた。 いや、この際そんな事はどうでも良い。問題なのは、この状況。 「んっ、ぁ……っ」 「もっと腰使いんしゃい。全然気持ちよくないぜよ」 「ぁっ、ぁっ、ぁあ……っ!!」 「柳生、痛いじゃろ? ごめんな?」 「痛い? こんな気持ちよさそうにしとるのにどこが?」 「痛いに決まっとる。もっと優しくすべきじゃ」 背後にいる仁王は容赦なく柳生を貫き、正面にいる仁王は心配そうに柳生を見ているだけ。 同じ人間なのに、その有り様はまるで違う。 「気持ち良いじゃろ、柳生? 柳生はMじゃもんな?」 「んぁ……ぁぁっ!」 「激しくされるの、好きじゃろ?」 「そんな奴おるわけないぜよ。いいから柳生から離れんしゃい!!」 「そうかのう……柳生は物足りなそうじゃが……」 背後にいる仁王が舌なめずりをした。 揺さぶられながら背中を舌先で撫でられ、柳生の背筋はゾクリと震える。それだけで達しそうになるのを、紙一重で耐えた。 頭が真っ白になる。 認めたくない。 認めたくないけれど。 四つん這いの姿勢のまま、柳生は正面に佇む仁王をぼんやりと見つめた。後ろからはもう1人の仁王が、弱い箇所を突き上げる。 「あぁっ、ぁんっ、ぁっ、ぁっ……!!」 「ほら、気持ち良さそうに鳴いとる」 「仁王、君……っ」 「大丈夫か、やーぎゅ? ほら、いい加減に柳生から離れ……や、柳生?」 正面にいる仁王には柳生が何をしているのか、一瞬分からなかった。カチャカチャと擦れ合う金具の音に続く、ファスナーを下ろす音。 途端に外気を感じて、仁王は自身を晒されたのだとようやく理解した。 「柳生!? お前さん、何して……っ!!」 「おー……積極的。やっぱ物足りんのじゃな」 「……んっ」 「ちょっ、待ちんしゃい柳生……っ!!」 慌てる仁王には構わず、躊躇無くソレにキスをする。その瞬間、正面にいる仁王が息を飲むのが分かった。 「……ダメ、ですか?」 「柳生……っ」 戸惑う様子の仁王は、柳生の知らない仁王。 柳生の知る仁王ならば、大いに喜ぶだろう。普段柳生から動く事は無い分、大袈裟なまでにはしゃぐはず。背後にいる仁王は間違いなくそのタイプだろう。 けれど今目の前にいる仁王は違う。しかしそれが、柳生の嗜虐心を何故か刺激した。 自分にこんな一面があったなんて、初めて知った。 「柳生……ぁっ!」 固くなりつつあるソレに、ゆっくりと舌を這わせる。先端をちろちろと舐めると、僅かに苦い味が広がった。 「やめんしゃい、っ……柳生」 「ぅぁっ……気持ちよく、無いっ……ですか?」 「気持ち良くないわけないじゃろ。柳生からの御奉仕なんて滅多に無いけえのう」 「ぁぁんっ!!」 「俺も柳生を気持ち良くしてやるけ、柳生もそいつ気持ち良くしてやりんしゃい」 「おま、何言っ……っ!」 柳生が正面にいる仁王のソレを口にした瞬間、仁王の口からは小さな息が漏れた。感じているのだろう。ギュッと目を瞑って耐えようとする姿が可愛らしい。 拙いながらも、柳生は懸命に奉仕する。後ろから突き上げられるせいで時折口から仁王のソレが零れ出るが、その度に柳生は口に含み、奉仕する事を止めない。 仁王が増えた。 どういう原理か分からないが、仁王が二人に増えた。 けれど背後の仁王はどこまでも意地悪く、正面の仁王はただただ優しい。同じ仁王でありながら、全く正反対の彼等。 しかし彼等が柳生には愛おしくて堪らなかった。どちらの仁王も、変わらず自分を愛してくれているのは事実。 「一緒にイくぜよ、やーぎゅ」 耳元で囁かれる。正面を見やればもう1人の仁王もそれを望んでいるらしく、切なげな表情で頷いた。 最奥の弱い場所ばかりを突き上げられる。 前に触れられ、快感の渦が柳生を包み込む。 同時に柳生自身は仁王を追い上げて、仁王は気持ちよさげに息を殺しながら柳生の髪を撫でる。 「んん……っ!!」 二人の仁王は柳生の中で。 柳生は仁王の手の中で。 幸せな感覚に包まれながら、三人同時に果てるのが分かった。 ※ ※ ※ 「やーぎゅ」 「……何ですか?」 「恥ずかしがらんとこっち見んしゃい」 「嫌です」 背中を向けたままの柳生。その柳生を後ろから抱き込んで、仁王は上機嫌なのだろう。先程から絶えず、頬や耳元に触れるだけのキスを繰り返している。 そもそも何故こんなにも腰が痛く、身体がダルいのか──と、それは考えなくても分かっている。仁王と行為に至っただけ。 ただ何故行為に至ったのかは覚えていない。確かに幸村に貰った入手困難なプレミアム焼酎“神の子”を、仁王と二人で飲んでいたのだが──さて、泥酔するほど飲んでしまったのだろうか。 いや、それは無い。飲みすぎない程度に柳生は自分でセーブできる。 なのに、記憶が無いのだ。行為に至る前後、及び行為中の記憶がほとんど。 「……何考えとるんじゃ? ヤッたら終わりち、それ最悪じゃろ。さすがに怒るぜよ」 「女々しい事を言いますね。らしくない」 「……」 「……どうしました?」 「あんまり覚えとらんのじゃ。というより……」 「何です?」 「いや……柳生が可愛く鳴いてたのは覚え──痛っ!! 今思い切り蹴ったじゃろ!?」 「気のせいです」 ギャーギャー喚く仁王を無視して、柳生は眉根を寄せた。仁王までも覚えていないとは、どういう事だろう。 二人して酔ってしまったのか──有り得ない。柳生が知る限り、仁王は酒に強い。飲み比べなら誰にも負けないくらいの強さだ。 やはり、分からない。 「やーぎゅ」 「何です……ぁっ!! ちょっ、何してるんですか仁王君!!」 「柳生が構ってくれんからじゃ。記憶も曖昧でなんか嫌じゃし、もう一回するぜよ」 「無理! 無理ですよ、仁王君……ひっ、ぁっ、ぁぁっ!!」 胸元を探っていた仁王の手が、柳生のソコを探し当てる。転がしながら首筋を舐められると、ゾクゾクと身体が反応した。 仁王に作り上げられた身体は、どこまでも素直に仁王を求める。 認めたくなくて反論しかけた柳生が自分の耳を疑ったのは、次の瞬間だった。 「「一緒に気持ち良い事するぜよ、やーぎゅ」」 甘く囁かれた仁王の声は、柳生の背後と正面から同時に聞こえた。 |