「そうか。そりゃご苦労じゃったな」

「仁王君の睨んだ通りでした。今頃彼女は貴方の家にいますよ」


ブレザーを脱いでハンガーにかける。それから柳生はベッドに寝転がって寛ぐ彼──仁王を見て苦笑した。


「家の誰かが帰しとるじゃろ。朝病院に行ってそのまま点滴、夕方まで病院で様子を見るち事になっとるからのう」


今朝早くに、仁王は柳生の家に来た。理由は簡単、バレンタインだから。

毎年のこのイベントに仁王がうんざりしていた事は知っている。特に例の彼女。彼女は執拗に仁王につきまとう。

それから逃れるために学校そのものをサボるというは柳生としては許せなかったが、それ以上に女の子達に仁王を渡したくないという気持ちが勝ってしまった。

結果、一日家にいさせてくれという仁王の要求を飲む事になった。そこには仁王を独占できるという欲も見え隠れしていたが、柳生は気付かないふりをしている。

そうして仁王は、今日一日柳生の部屋で過ごした。おそらくは一歩も出ていないはずだ。

学校をサボするなど決して仁王のためにはならないのだが、自分は何をしているのだろうか──柳生は深く溜め息をついた。


「やーぎゅ」

「なんですか?」

「ん」


ベッドに座ったまま両手を広げて、仁王はニッと笑う。一瞬躊躇った柳生は、誘われるようにそのままダイブした。

勢いがよすぎたのだろう。ベッドに倒れ込む仁王には構わず胸元に鼻先をつければ、彼の匂いが柳生の鼻腔をくすぐる。


「今日は素直じゃな、柳生?」

「代わりにチョコを受け取る私の身にもなってください」

「嫉妬した?」

「違います。ただ申し訳ないな、と。どうせチョコは捨てられてしまいますし、御礼も無しですから」

「御礼なんて期待しとらんて、アイツ等は。俺の性格をよく知っとる」

「……それでも渡したいんですね。女性というのは分かりません」

「気が済んだならもう黙りんしゃい、柳生」


唇をペロリと舐められる。視界が反転したのは次の瞬間だった。


「柳生は俺の事だけ考えてたら良いんじゃ」


真剣な眼差しを向けられたら逸らせなくなる。けれどこのままというのも恥ずかしくて、柳生はギュッと目を瞑った。


「誘っとるようじゃな」


ククッと笑われたかと思えば、首筋を舐められて背筋が震えた。下から上へと這い上がったそれは、耳の裏側へと辿り着く。それからやんわりと噛むようにされれば、スイッチが入ってしまう。



それまで知らなかった自分。

仁王に教えられた自分。

仁王に染まってしまった自分。



仁王に育てられた身体は、柳生の意思に反して仁王を欲し始めていた。



※ ※ ※



「ぁっ……んっ」


勃ち上がった柳生のそれは、仁王の手の中にある。最初は壊れ物を扱うかのように優しく触れていたが、次第に強く握られて痛いと感じる時もあった。それさえ気持ち良いと感じ始めたのは、つい最近の事。

ゆっくりと輪郭を辿るようにされて先端を撫でられると、声を抑えられなくなる。柳生がとっさに自分の口を押さえると、仁王が眉を寄せるのが分かった。


「柳生、声」

「……っ」

「家族、留守じゃろ?」

「でも……」

「俺しかおらんけ、恥ずかしくないぜよ。まぁ良いけど」


仁王なりの妥協だろうか。それ以上強いる事は無く、代わりに両足を割り広げると隠れていた後孔に触れた。

指先を僅かに出し入れされると、そこが濡れているのが分かる。先走りは既にこんなところまで達していたのだ。


「こっちは何もしとらんのにひくひくしとる……そんなに気持ち良いんか?」

「ぁ……っ」

「ほら、もう入ってった」


もう何度も肌を重ねたせいで、身体が疼いている。仁王自身を受け入れた事は無いが、その指や形は覚えてしまった。

仁王が指を折り曲げると、柳生の弱い場所に擦れた。目が合った仁王が、ニヤリと笑う。


「ここ、好きじゃろ?」

「にお、くん……っ」

「イって良いぜよ、やーぎゅ」

「ぁっ、ぁっ、あぁ……っ」


後孔を攻められて、同時に前も攻められて、声を抑える余裕など柳生には無かった。ただシーツに縋って喘ぐだけ。

真っ白になる思考の中で目にしたのは、仁王の優しい笑み。胸が高鳴ると同時に、酷く苦しく感じたのは何故だろう。

仁王の穏やかな声に誘われて、柳生はその手の中に欲を放った。









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