「でしたら家に来ませんか?」 そう言ったのは柳生で、仁王はその言葉に甘える事にした。柳生の家に着けば誰もおらず、聞けば両親は仕事で遅くなる、妹は友人の家に行っているらしくいないという。 つまりは二人きり。仁王にとってはこの上ない好都合だった。 ひとしきり談笑した後雑誌を読んでいた柳生の手をやんわりとどけて見つめれば、どうしていいのか分からないというように目を泳がせる。その姿は堪らなく可愛い。仁王は柳生の頬に手を添えて、そっと触れるだけのキスをした。 一瞬にして柳生の頬が真っ赤に染まる。 ここまではいつも通り。しかし仁王は、今日はその先に進むつもりでいた。 恥ずかしさに俯いている柳生の顎を掬って、再びキスをする。舌先で唇を割って入り込めば、突然の事に驚いたのだろう。とっさに離れようとする柳生の髪に手を潜らせて、それを止める。 「ん……っ」 柳生のくぐもった声が、仁王の聴覚をくすぐる。腰を抱き寄せて逃げる舌を捕まえると、その柔らかさを楽しんだ。 さすがに苦しかったのだろう。弱々しく背中を叩かれてようやく唇を離すと、柳生は僅かに喘いだ。間を置かず再び唇を奪えば、力の入らなくなった両手で仁王に縋る。 仁王が柳生のシャツの裾に手を忍び込ませた時だった。 「……っ!!」 弱々しく、しかし確かに柳生は抵抗した。 嫌だという意思表示だろうか。仁王のキスから逃れてゆっくりと首を振る。その手は仁王の手を掴んで絶対に離さなかった。 「柳生……」 柳生の額にキスをして、髪にキスをした。それから耳、耳の裏側、頬、瞼、最後にもう一度、唇に。 「ビックリさせたかのう」 「仁王君……」 「怖い?」 柳生はゆっくりと頷いた。 怯えたような眼差しと震える身体に、少し可哀想になる。はやる気持ちだけが先行して、柳生の気持ちなど考えていなかった。 子どもだ、と思った。 自制が効かず思うがままに行動する──それは子どもがする事だ。 「ごめんな」 そう言って抱きしめると、今度は柳生も抵抗しなかった。その腕が仁王の背中に回される。 「ごめんなさい、仁王君。嫌いじゃないです。好きなんです、仁王君の事。だけどまだ怖いんです……ごめんなさい」 「……柳生、もう一回言って?」 「……?」 「俺の事好きち、言って?」 柳生の髪を撫でながら、そっと囁く。 改めて言うのは抵抗があるのだろうか。僅かに間を置くと、柳生は仁王の両頬を挟むようにして、性急なキスをした。 「好きです、仁王君」 仁王の瞳を正面から捉えて、柳生はハッキリと言った。それが柳生の精一杯。 見る間に紅潮する顔を隠すように、仁王の胸に飛び込む。驚いて若干固まっている仁王には構わず、柳生はそこに顔を埋めた。 密着した場所から、柳生の鼓動が先程より速くなっているのが分かる。 「ありがとう、やーぎゅ」 柳生から好きだと言われたのは初めて。柳生からのキスも初めて。 プライドの高い柳生の事。羞恥心や抵抗する気持ちを全部押し殺しての行動だろう。 十分だ。 耳まで赤く染めた柳生は、もう何も言わない。抱きついたまま離れようとしない柳生の髪にもう一度キスをして、仁王は強く抱きしめた。 …to be Christmas. |