いつもと変わらない朝。そう、誕生日とはいえ、朝の風景は変わらない。変わらないからこそうんざりする。変えてくれれば良かったのに、神よ。


「おはよ、仁王」


昇降口に立っていたのは、学校でもトップクラスと言われる美少女。とはいえきつく巻いた髪と化粧と香水のせいで、実年齢以上に見える。美人である事に変わりは無いのだが。


「おはようさん」

「今日仁王の誕生日でしょ?」

「そうじゃの」

「おめでとう、仁王」


その言葉と共に、さも当然の如く差し出されたのは、綺麗にラッピングされた箱。その真横を通って回避した仁王は、何事も無かったかのように廊下を歩き始めた。


「なによ、仁王! この私が誕生日プレゼントをあげようってのに!!」

「いらん。他の奴にあげんしゃい」


ひらひらと手を振る仁王の背後で、彼女の喚く声が聞こえた。

美少女である事は間違いない。しかし高飛車で自己中心的な性格の彼女が、仁王は苦手だった。

なのに彼女は仁王に固執する。朝の出迎えはもはや日課。放課後は部活の見学にも来ていたし、帰りに待ち伏せている事もある。アピールしているつもりなのかもしれないが、恋人気取りの彼女にいい加減うんざりしていた。

無論、プレゼントだっていらない。受け取るのは簡単だがそれで勘違いに拍車がかかっては困る。


「おはよう、仁王君。朝から大変だね」


妙に疲れた顔の仁王に、昇降口でのやり取りが想像できたのだろう。隣の席の女子生徒は苦笑していた。


「おはようさん。いつもいつもご苦労な事じゃ。俺の気持ちが向くわけでもないのに」

「知ってるよ。仁王君が迷惑そうにしてるのも、皆知ってる。あの子だけだよ、知らないの」


それから、あっ、と思い出したように彼女は続けた。


「仁王君、今日誕生日だよね? おめでとう」

「おん」


言葉だけの祝福。しかしそれが仁王にとっては一番嬉しかった。美少女からのプレゼントより、普通以下の容姿のクラスメイトからの言葉が。

とはいえやはり誕生日である。プレゼントは欲しい。が、その相手はたった一人で、今日はまだ会えていない。おそらくは放課後にならないと会えないだろう。向こうから会いに来る事はまず無いから。

仕方ない。表向きは特別な関係ではないのだ。公衆の面前ではあからさまな事はしないというのが付き合う時に決めたルールだから、そこは守らなければならない。


「しかし会いたいぜよ、やぎゅー……」


会いに行くだけならできる。しかし日付が変わると同時に送られてきたあのメールと柳生の柔らかい笑顔が思い出されて、会ってしまえばそれだけではすまなくなる気がする。たぶん、抱きしめてしまう。

そうなればルールを破った事になり、柳生からは三行半を突きつけられてしまう。異性相手なら百戦錬磨の仁王が苦労して苦労して苦労して、3ヶ月程前にようやく手に入れた相手だ。そう簡単に手放したくはない。

周囲に聞こえない程度に一人呟いて、仁王は机に突っ伏した。









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