太陽が真上にくる時間。面倒くさいから本当はあまり出歩きたくないんじゃが、柳生が「行きたい」というから仕方なしに俺は外に出た。俺と一緒なら今日は好きにして良い、と言った手前、文句は言えない。

そこは路地裏にある小さな建物だった。廃ビルの裏にある、元は集会所として使われていたであろう二階建ての建物──ちょうど表通りからは隠れてしまうこの場所が、俺達の仲間が拠点としている場所だ。……うん、仲間。一応な?

で、柳生はといえば、その仲間が面倒をみている子ども達と遊んでいるところ。基本的に柳生は優しいから、子ども達にも人気があるらしい。

そんな柳生の昨夜の姿なんぞ、奴等には見せられんのう……


「なんだよぃ、仁王。眠そうだな?」

「朝から柳生が甘えてきてのう……」

「お前……っ!! アイツ等の前でそういう事言うなよな!!」

「誰も聞いとらんて。皆遊びに夢中じゃ。それにしてもブンちゃん、顔真っ赤じゃな」

「──っ!!」

「可愛いのう……どうじゃ。俺に一回喰われてみらんか?」

「はぁ!? 俺が!? お前に!? 冗談だろぃ、気色悪い」

「冒険心は必要ぜよ。案外相性も……」

「相性云々の前に柳生が泣くぞ、仁王?」


ブン太に促されてそちらを見やれば、子ども達の相手をしながらもこちらを見ている柳生と目が合う。

しかもきちんと聞こえていたらしい。半分涙目になりながらも、鋭くこちらを睨んでいる。


「地獄耳……」

「いや、普通に聞こえるだろぃ」

「冗談じゃ、柳生。丸いブタじゃ俺の相手は務まらん」

「誰がブタだよ、この白髪!!」

「耳元で叫びなさんな……煩いのう」

「ブン太でからかって遊ぶな、雅治」


低い声と共に、長身の影が姿を現す。


「何じゃ。帰っとったんか、柳」

「たった今、な」

「俺もいるッスよ、仁王先輩!!」


柳の陰からひょっこりと顔を出したのは赤也。ニッと笑うコイツは、どんな時でも柳から離れようとはしない。柳に執着している──とも言える。


「水と小麦粉、他は適当に買ってきた」

「あとコレ、白イチゴっす」

「白イチゴ? これはまた珍しいもん買ってきたのう」


柳と赤也は近くの市場まで買い出しに行っていた。市場とは言っても完全に闇市で、そのルートは誰も知らない。ある程度は予想がつくがのう。

闇市であるが故に時にはなかなかお目にかかれない物が並んでいる場合もあり、その一つが白イチゴ。品種改良の末に作られたらしい代物で、外部ではもちろん、第参区内でも珍しい逸品だ。


「買ったのではない。シズエさんからの頂き物だ」

「あぁ、市場の入り口に住んどるあの婆さんな。元気じゃった?」

「腰が痛いと言っていたな。暇ならマッサージでもしてやれ、仁王」

「あー……考えとくぜよ。で、その様子を見ると今日は何も無かったんじゃな、柳?」


ちらりと見やる俺に、柳は苦笑しながら頷いた。


「今日は、な」

「大丈夫ッス、柳さん。柳さんは俺が守りますから!!」

「お前の柳好きはもはや病気じゃな」

「病気? え、俺元気ッスよ?」

「うん、分からんで良ぇから」


本当にもう病気じゃな、アレは。いつでもどこでも「柳さん、柳さん」言いながらついて回る。柳の傍を絶対に離れようとしないし、柳に手を出そうものなら仲間ですら容赦しない。

異常なまでに執着しているが、実は柳の護衛という意味では大いに役立っている。赤也は馬鹿じゃがいざという時の戦闘能力は高いからのう。

そして柳は……見た目はアレじゃが本来ならば普通の中学生。無法地帯である第参区で生きていく術など持っているはずもなく、故に赤也という護衛が必要だ。

ま、そうじゃなくても柳は訳ありでボディーガードが必要なんじゃけど。


「ありがとう、赤也。お前がいるから俺はここで生きていられるんだ」

「本当ッスか? 柳さん、俺のおかげ?」

「赤也のおかげだ」


赤也のクルクル頭を、柳の大きな手が撫でた。それだけで嬉しそうに笑う赤也の姿が微笑ましくて、つい現実を忘れそうになる。



現実。



頭が良く、たまに毒を吐くとはいえ基本的に優しい柳が抱えている現実。

柳が第参区に来たのは二、三年前。柳を見つけたのは赤也で、嬉しそうに俺達の元に連れて来たのを覚えている。今と違って背も高くは無く、女の子のように可愛い顔立ちをした柳は、突然自分の身に降りかかった事に心底怯えていた。

柳の傍から離れようとしない赤也が、結果として護衛についたのも同じ日。

しかし、柳を取り巻く環境や現実はほとんど変わっていない。あれから数年経つにも関わらず、変わっていないのだ。


「どうした?」


そう問う柳に僅かに見える、幼い面影。あの頃の可愛らしさは無いが、柳は綺麗になった。

そして。


「お前さん、だんだん“柳博士”に似てきたのう……」


成長した柳の姿は、“柳博士”を彷彿させる。俺と赤也の親とも言うべき柳博士──柳蓮二の父親と面影を重ねずにいられなかった。










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