学校の帰り道。 差し出されたのは赤い包装紙に包まれた、薄い板──のような物。包みを開けて現れたのは──…… 包みを開けて出てきたのは、ごく普通の板チョコ。近くのコンビニで売っているのを見た事がある。 今日は柳生と付き合って初めてのバレンタイン。几帳面な柳生の事だから頑張って何か作るんじゃないかと踏んでいたのだが……そう来たか。 正直、意外じゃった。反面、柳生のユーモラスな一面を見れて嬉しい気もする。 「ありがとな、やーぎゅ」 その言葉に嘘は無い。柳生が俺にくれたんじゃ。意表を突かれたが心底嬉しかった。 ところが柳生は無言のまま頷くだけで、その雰囲気はどこか暗い……というより、不機嫌。眉間に皺を寄せて唇を結ぶ姿が、明らかな機嫌の悪さを示していた。 ……俺、何かしたかの? まさかこの前レンタルショップでAV借りよるところを見られた? それとも丸井にダビングしてもらった無修正のアレが見つかった? それを更に赤也に貸したのがバレた? いやいやいや、それは無いじゃろ。柳生にはバレないよう謀ったし、俺にぬかりはない。レンタルショップでAV借りる時だってイリュージョンで真田の姿を借りとったしのう。ちなみに全く怪しまれず借りれたぜよ。 しかし……なら一体なんじゃ? 訳が分からず俺が首を傾げていると、俯いていた柳生が気まずそうに顔を上げた。 「……したんです」 「ん?」 「失敗、したんです!!」 突然柳生が怒鳴るものだから、俺は思わず後退りした。声が響いて耳の奥が痛い。いや、お前……何も怒鳴らんでもえぇじゃろ。 「ケーキを作ってたんです。でも……失敗……しました」 顔を真っ赤にした柳生の声が、徐々に小さくなっていく。 失敗して、それで板チョコというわけか。 おそらくは失敗して作り直す時間も材料も無く、慌てて買いに走ったもののチョコはどこも売り切れ。祈る思いで入ったコンビニで見つけたのが板チョコだった──と、こんなところか。 思い通りに行かなくて、それと板チョコしか用意出来なかった事が申し訳なくて柳生は不機嫌だったんじゃろう。ただそれだけで不機嫌になるなんて可愛いのう。 俺としては板チョコだろうと難だろうと、柳生がくれるものならなんでも嬉しいんじゃが。 いや、初めてのバレンタインじゃし確かに期待はしたが。 「すみません。後日また用意しますから」 「いや、構わんぜよ。十分じゃ」 「いえ、それでは私が納得いきません」 俺の誕生日の時と同じで頑なな柳生。これはまた本当に用意するな、コイツ。 しかしそこが可愛いところ。なんじゃ、そんなに俺の事が好きなんか? 嬉しいのう……。 綻ぶ口元を隠しきれずにいると、柳生に「何ですか、気持ち悪い」と言われた。気持ち悪いち……その気持ち悪い奴を好きなのは誰じゃ。 「柳生」 道端であるのも忘れて、柳生を抱き寄せる。嫌がる柳生の髪を撫でると、観念したかのように柳生は大人しくなった。 その耳元に唇を寄せて──…… 「柳生、ホテル行かんか?」 真顔で言った俺の頬を、額に青筋を浮かべた柳生が全力で殴る。 そんな似非紳士様が、俺は大好きです。 |