夕方になって柳生の家に行き、夕飯にと作ってくれたのは温かいシチュー。これまで味わった事がない程の絶品に、正直驚いた。 「お前さん、俺の嫁にならんかの?」 「……は?」 それはとっさに口から出た言葉。嫁に欲しい。それくらい美味かったんじゃ。 一緒に夕飯を食べた後は部活の話とか趣味の話、いろんな事を話した。 それから「さて、何か御用はございますか?」と柳生が言うから、とりあえず肩と背中をマッサージしてもらった。柳生も悪ノリして「いかがですか、御主人様」なんて言うから、本当に柳生が俺の物になったような気分に陥る。 ついでに他のところもマッサージしてもらおうかと思ったのはここだけの話。 で、今。 柳生は今、入浴中。先に入ってしまった俺は、リビングで柳生を待っているわけだ。 この後の事を考えると……落ち着かない。 いや、別に俺達は付き合っているわけではないから、万一にもそんな事は無い。無い……と、思う。柳生は男同士、なんて想像すらできんじゃろうし。 それでも、もしかしたら、と考えてしまうのは致し方ない。俺だってそういうお年頃じゃしの。 だいたい柳生は「私を好きにしてくださって構いません」ち言うたんじゃ。つまりあんな事やこんな事しても良いち事ぜよ。実際、「ヤらせて」と一言いえばヤらせてくれそうな気もする。 「私、初めてなんです。優しくしてださいますか?」なんて言われたら……。 大丈夫じゃ、柳生。ちゃんと優しくするぜよ。仁王君は優しいんじゃ。 前戯はゆっくり、柳生の身体に快感を植え付ける。初めてなら痛いだろうから準備は念入りに。挿入の時もできる限り痛みを感じさせないようにして、柳生の良いトコロを突き上げてやる。終わってからも抱きしめてやるからの、柳生。 ……けど、途中で柳生が泣いたらどうしようか。 柳生の泣き顔…… 泣き顔…… 泣き顔…… 柳生の泣き顔、可愛いじゃろな。吊りがちの目一杯に涙を浮かべて「にお、くん……」なんて言われたら俺、正気失うかもしれんの。 そしたら柳生の手首縛ってめちゃめちゃにしてしまうかもしれん。「やめてください」言うてもやめてやれんかもしれん。 自由を奪われた柳生の腰を掴んでアンアン言わせるのも悪くない。鳴かせて鳴かせてかすれた声で「イかせてください」なんて言わせるのも悪くない。 うん、悪くないぜよ。 ……ごめん、柳生。俺、優しくしてやれんかもしれん。 「どうしたんですか、仁王君?」 いつの間にか風呂から出たらしい柳生が、俺の顔を覗き込む。 顔が、近い。 鼻と鼻がぶつかりそうな距離に、俺は内心の焦りをひた隠しにした。 「気にしなさんな、何でもない。飲むか?」 「いただきます」 俺が飲んでいた水を、柳生が飲む。いわゆる間接キス。 ただそれだけなのに柳生から目を逸らせない辺り、俺は相当に重症なんだと思う。水が喉を通る度に動くそれに、俺の目は釘付け。 「そういえば仁王君、欲しいものは決まりましたか?」 またそれか。 「柳生」 「仁王君……」 深々と、柳生は溜め息をつく。 「今日と明日は好きにしてくださって構わないと言ったでしょう?」 「じゃからそれで十分じゃよ」 「それはサービスです。きちんと何か差し上げますから」 「じゃあ明日また出かけるかの? お前さん、納得せんみたいじゃし」 「そうですね。またどこかへ行きましょう」 明日、また柳生とデートできる。柳生にとってただの買い物でも、俺にとってはデートそのもの。 もうそれだけで嬉しい。十分じゃ。 十分なんじゃけど…… 「それじゃあそろそろ部屋に行きませんか、仁王君」 邪な感情はどこからともなく湧き上がる。相手が他でもない柳生だから、仕方ない。 けど嫌われたくない。嫌われたら俺、たぶん発狂する。 じゃから、我慢する。感情は胸の奥底に押し込んで、ただの親友のふりをして――…… 「今日は一緒に寝ましょう、仁王君」 この天然紳士め……!! - ←/→ - |