柳生が泣いていた。

あの婆さんは柳生の事も可愛がってくれていた。白髪と違って可愛げがある、なんて言われた事もある。祖母と孫のような関係に似ていた。とにかく仲が良かったのだ。無理もない。

今思えば、あの婆さんは柳生と柳の事を特に気にかけてくれていたように思う。情報屋を営んでいたから、もしかしたらどこからか二人の話を拾ったのかもしれない。

それはつまり、柳と柳生の情報がどこからか流れているという事になる。その理由や必要性が二人とも明確にあるから、たちが悪い。二人が悪いわけではないけれど。

柳生が泣いている。
俺は、どうする事もできない。




※ ※ ※





「なんでシヅエさんが殺されなきゃいけなかったのかなぁ?」

「聞くんか、ソレ」

「だって普通のお婆ちゃんだろ?」

「幸村が言うと全部嘘臭く聞こえるのう」

「じゃあ訂正しよう」


にっこりと笑って、幸村。


「シヅエさん、何か言ってた?」


あの婆さんと最後に会ったのは、どうやら俺らしい。それは別にどうでも良い。問題は、婆さんが俺を呼び出したという事。

そう、俺は婆さんに呼び出された。マッサージの名目で。


「“ネズミが紛れ込んどるから、気を付けろ”」

「ネズミ?」

「ネズミ」

「ネズミ、ねぇ……」


思い当たる節が、残念ながら俺も幸村もある。

柳の幼なじみという、アイツ。真田弦一郎。


「どんなネズミだと思う?」

「知らん」

「じゃあアイツのバックには誰がついてると思う?」

「さぁな」

「跡部か手塚……どっちかな?」

「跡部ならまだマシ」


手塚なら面倒くさい、というのが本音。手塚本人というより、その取り巻きが。


「跡部のとこはまだ話が分かるヤツがいるからね」

「宍戸はな。一緒におるヤツが面倒じゃ」

「あぁ、アイツね。でもこのままってわけにも……いかないよね」

「どうする?」


わざとらしく考え込む素振りを見せた幸村は、すぐにニッと笑う。まるでイタズラを思い付いた子どものようだ。


「ま、今まで通りで良いんじゃない?」

「それ、何も変わらんじゃろ」

「仁王、推理小説の探偵は事件が起こった後何を待ってると思う?」

「何じゃ、いきなり」

「答えは『次の事件』」


それ、お前の偏見じゃろ──言いかけた言葉を、喉元で飲み込む。

幸村が言いたいのは、そこではない。新たな事件が起こればそれだけ手掛かりも出てくる。もしかしたら犯人が尻尾を出すかもしれない。つまりはそういう事だ。

けれど。


「これ以上の犠牲はごめんじゃ」


婆さんの事だって、こんなはずじゃなかった。いくら死が日常である無法地帯とは言え、俺達と関わらなければあんな事にはならなかっただろう。可能なら一人の犠牲も出したくない。


「犠牲は出さないつもりだよ。関係の無い人間からはね」


僅かに苦笑した幸村の瞳が、途端に鋭くなる。その眼差しが、俺を正面から射抜いた。


「──敵をあぶり出す。お前、そういうの得意だろう?」

「本意じゃないのう」

「無関係の子ども達に被害が及ぶよりはマシだろ?」


返す言葉が、見つからない。

ため息を吐く俺を見やった幸村が、あ、と笑う。


「子ども達を離そうか。俺達といるよりマシだろ」

「丸井達と離したら泣くぜよ、アイツ等」

「会っちゃダメなんて言わないし、言い聞かせたら分かる子達だよ。難なら丸井達も俺達から離せば良い」

「それはそれで丸井君が煩そうじゃな」

「そうだねぇ……」


聞いているのかいないのか、幸村が天井を見上げて続けた。


「木手達に預けるってのはどうかな? アイツ等なら悪くしないだろ?」


アイツ等は良いヤツだ──そこは否定しないし、現状、独立できる奴等がいるとすればアイツ等しかいない。

子ども達の事、チーム縮小の事はさておき、肝心な部分に関しては幸村の言う通りにするしかないのだろうか?

顔に表れていたのだろう。俺を見て困ったように笑う幸村は、判断は仁王に任せるよ、と言って踵を返してしまった。









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