柳生が体調を崩したらしい。

それを小耳に挟んだのは偶然で、無意識に仁王は保健室へと向かっていた。

ノックしてみたが中から反応は無い。できるだけ音を立てずににそっと室内へと足を踏み入れると、そこには誰の姿も無かった。ただ奥のベッドを隠すように閉められたカーテンだけが、そこに誰かがいる事を唯一示している。


「柳生?」


静かにカーテンを引いてみると、そこには真っ白なベッドに横たわる柳生の姿。

眠っているのだろう。メガネを外した瞳は閉じられ、そこにいつもの鋭さは無い。

確かに顔色が少し悪い気がする。いつも以上の白さを伴い穏やかに眠る姿はなんとなく神聖で近付き難く、けれど妙な独占欲が湧いてくる。まるで──……

吸い寄せられるように、仁王は柳生の枕元に両の手をついた。


「にお……君?」


その瞬間、うっすらと目蓋が開かれる。日差しのせいで白銀のように見える瞳が、同じ色を放つ仁王を映した。


「体調崩したち聞いたが?」

「大丈夫ですよ。少し休んだら楽になりました」


体を起こして、ご心配おかけしました、と柳生は続ける。それは掠れた、しかし低く優しい声音。

それにしても──と、仁王は思う。

まるでどこぞのオヒメサマのようだ。キスで目を覚ますなんて。

ククッと笑う仁王を、柳生が不思議そうに見やる。思った以上に熟睡していたらしい。柳生は全く気付いていないようだ。

早く治しんしゃい──柳生を優しく包み込んで、仁王は柔らかく囁いた。











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