「それにしても驚きました。私があのレストランを気に入ってる事……仁王君は御存知だったんですね」


仁王の家についてしばらく談笑した後、柳生はふと口にした。

それは一度しか行った事が無いレストラン。簡単なコース料理を出すお店。それも幼い頃の事で、記憶自体が曖昧。

ただ最後にデザートとして出されたケーキのほろ苦さが、“大人の味”を思わせた。まだ小さかった柳生だが、逆にそこが気に入っていたのだ。

しかし柳生より更に幼かった妹の口には合わなかったようで、それ以来行ってはいない。


「ほれ、柳生」


話を逸らすように、突然、仁王が何かを投げて寄越した。

とっさに受け止めたそれは、掌程の大きさの真っ白な箱。淡い緑色のリボンがシンプルに飾られている。


「プレゼントじゃ」

「……開けても良いですか?」

「おん」


リボンを解いて箱から出てきたのは、リングのネックレス。大きめリングのそれは、中央にゴールドのラインが入っている。

このネックレスに、柳生は見覚えがあった。


「これ、私が仁王君に贈った……」

「おん。同じ物じゃ。着けちゃるぜよ」


柳生の手からそれを奪ったかと思えば、仁王はすぐにその背後に回り着けてやる。胸元で小さく鳴ったそれは、妙に柳生の身体に馴染んだ。


「ん。似合うぜよ、柳生」

「仁王君……っ」


途端に後ろから抱きついてきた仁王は、そのまま柳生の首筋に唇を落とす。強く吸われる感覚に、柳生は息を飲んだ。

仁王の舌が柳生の首筋を辿り、今度は耳元に仁王の息遣いを感じた。


「にお、君……っ」

「ちょっとだけ。良いじゃろ、柳生」


言うや否や、仁王の手がシャツの裾から入り込んでくる。脇腹を辿る感覚がどこかくすぐったく、ただそれだけなのに柳生の中のスイッチが入る。

いつから自分はこんなに淫らになったのだろう。


「……ぁっ、……んっ」

「柳生、もしかして後ろからされるの好き? いつもより感じとる」

「そんな事……ふぁっ」

「そんな事ない? 柳生の、もうこんななっとるけど」


ふとそこを見やれば、自分自身が主張しているのが布越しに分かる。形を見せつけるように輪郭を辿られると、頬が熱くなるのを感じた。


「やっぱり好きじゃろ、後ろからされるの」

「にお……君っ」

「ここも、可愛いのう」

「ぁっ、や……っ」


胸元を這う仁王の右手が、小さなそれに僅かに触れる。同時に舌先で耳元をくすぐられ、濡れた音が柳生の胸を高鳴らせた。

仁王の全てが、柳生を侵していく。


「ぁ……っ、んっ、仁王、君……っ」

「イって良いぜよ、やーぎゅ」

「ふぁっ、ぁっ、あぁぁ……っ!」


ひときわ高い声を上げて、柳生は欲を放つ。肩で息をする柳生を抱きしめながら、まるでその全てが自分の物だとでも言うかのように、仁王はその残滓まで搾り取った。

仁王の右手が柳生の顎を掬い、彼へと向くよう促される。されるがままに振り向けば、優しい瞳が柳生を見つめていた。


「にお、君……」


僅かに微笑を浮かべた仁王の唇が、柳生のそれに静かに重なる。啄むようなキスを何度かされて、心が温まるのを感じた。

仁王が好きだ。
心から、そう思う。
けれど。

不意に腰の辺りに、違和感を感じた。


「柳生、ちょっと待っててな」

「え? あっ、仁王君……!」


離れようとする仁王を、反射的に止めていた。掴まれた腕に驚いたのか、仁王の瞳が見開かれる。

けれど何と言えば良いのかも分からない。

仕方なく柳生は、ベッドに座るよう手を引く事で促した。


「えっと……柳生さん? 俺余裕無いんじゃ。離してくれんかのう?」

「少しだけ……我慢してください」

「柳生……!?」


仁王の足元にひざまずくと、手際良くベルトを外す。仁王の止める声が聞こえたがそれには構わず、柳生は狭い中から仁王自身を取り出した。

勢い良く顔を出したそれは、柳生のモノよりずっと大きい。

一瞬息を飲んだ柳生は、ゆっくりとソレに触れてみた。


「柳生……っ」


僅かに呻いた仁王自身が、更に硬くなる。先端からは先走りが零れていた。

自分がそうさせたかと思うと、何故か嬉しい。

仁王が愛おしく思えて、柳生はその先端に触れるだけのキスをした。

刹那。


「不味いじゃろ? 当たり前じゃ」


そう。苦味を帯びたそれは想像以上で、柳生は思わず顔をしかめてしまう。

ククッと笑った仁王が、柳生の髪を撫でた。


「無理せんで良いき……な? 柳生」


こういう雰囲気になる事は分かっていた。今日は仁王を気持ち良くすると、そう決めていたのだ。ここで引き下がっていては、今までと何も変わらないのだから。

鞄の中から小さな包みを取り出すと、仁王自身に垂らす。それから手で優しく包むように塗って、柳生は恐る恐るその先端を舌先で掬った。





※ ※ ※





「……っ」


甘い匂いが鼻腔をくすぐる。突然強く吸われて、仁王は息を飲んだ。

顔をしかめたはずの柳生は、それが嘘であったかのように今は懸命に奉仕している。

自分の足元で揺れる茶色い髪を撫でれば、柳生が少しだけ顔を上げた。咥えたままだから、妙に色っぽい。


「付いとる」


気付いてなかったのだろう。柳生の鼻の頭に付いたそれを一撫でして、仁王は口に運ぶ。

ペロリと舐めるその様を、柳生がぼんやりと見つめていた。


「これ、どうしたんじゃ?」


それは匂いを裏切る事無く甘かった。まるでお菓子のような甘さ。ただし、ベタつきは無い。

おそらくローションだとは思うが、それにしてもこの甘さは何だろう。そもそもどこで手に入れたのか。

一旦口を離した柳生が、微笑みながら言った。


「柳君に相談したら……くださいました」

「参謀に相談? 何を?」

「……美味しいですよ、仁王君の」


僅かな間を開けて、柳生はまた仁王のソレを口にした。時々唾液と仁王を零しながら、それでも懸命に舌を這わせる。

言いたくないという事だろう。何となく想像はできるが。

可愛いと思った。本当はまだ躊躇いがあるくせに、懸命に応えようとする姿が。気持ち良くしたいと努力する、柳生が。

決して上手くはないが、健気な柳生が愛おしくて仕方ない。実は柳生は自分を落とすポイントでも知っているのではないだろうか。

仁王は苦笑して、柳生の乱れた前髪を整えてやった。

理由はどうでも良い。柳生の気持ちが分かってただけで十分だ。

けれど身体はそういうわけにはいかない。元々余裕が無かったのだ。ずいぶんと我慢したが、柳生に煽られてその限界が近付いている。


「柳生、もう、離しんしゃい……っ」


しかし柳生は離そうとしない。むしろ仁王を追い上げるかのように、強く吸い上げた。


「なっ、柳生……っ!」


一瞬の事だった。どこか淫靡な柳生に誘われるまま、気が付けば仁王はその温かい中に欲を放っていた。





※ ※ ※





「柳生の淫乱……」

「やめてください、失礼な」

「本当の事じゃろ。だってあんな……痛っ! やめて、柳生。物投げつけるのやめて! 仁王君ケガするき」

「してしまえば良いんです」


拗ねたように頬を膨らませて、柳生はそっぽを向く。その姿すら可愛くて、仁王は柳生の背後から回した腕で更に強く抱きしめた。

あの後仁王の白濁を飲みきれず、ティッシュに出してしまった。仁王は別に気にしてなどいない。しかし柳生はそうではないらしく、一つはそれがネックになってこんな偏屈な態度になっている。


「照れんでも良いじゃろ」

「照れてません」

「のう、柳生」

「……なんですか?」

「ありがとな」


耳元で囁くと、柳生は少し考える素振りを見せてもぞもぞと身体を動かした。腕の力を緩めてやると、少し動いて仁王に向き直る。

俯き加減だった顔を静かにあげると、その澄んだ瞳が仁王を射抜いた。


「プレゼント、ありがとうございます」

「ん」

「大事にします」

「ん」


柳生のメガネを奪って額同士をつけると、柳生は恥ずかしそうに、しかし逃げる事はなく瞳を閉じた。


「俺は柳生を大事にする」


言って仁王は、しっとりと唇を重ねる。触れるだけの、羽のような優しいキス。


「ネックレスも大事にしてください。せっかくお揃いなんですから」


唇を離して、柳生がふわりと笑う。二人の胸元では揃いのネックレスが輝いていた。






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