部活の後片付けをやるのは一年生の役割──これはどこの部活もほぼ同じ。もちろん、柳生達も例外ではない。 「良し、終わったな。さっさと帰ろうぜ」 「お前はほとんどやってないじゃろ、ブン太」 「なんだよ、ジャッカルだってやってないだろぃ?」 「ジャッカルは帰省中なんだから当然だろう。それから雅治。お前は他人の事を言えないだろう?」 「ピヨッ」 「そうなんだよなぁ。早く帰って来ねぇかなぁ、ジャッカル……」 「なんだ。丸井はジャッカルシックかい?」 「違うっての。だいたい幸村君、何だよそれ」 「いつまでもジャッカル離れができないとは……たるんどるぞ、丸井」 「俺の真似をするな、幸村」 「しかも似てないナリ」 「えー? 俺頑張ったのに酷いなぁ」 制服が変わっても相変わらず皆仲が良い。ここにいないジャッカルに、赤也も。 柳生が制服に着替えていると、先に着替えを済ませた柳が、ケータイを見て僅かに微笑むのが見えた。 おそらくは赤也からメールでも入っていたのだろう。ではな、と一言だけ残して早々に帰っていった。 「柳は赤也とデートか?」 「いや、デートというか……個人授業かな? 家庭教師?」 「なんで?」 「もうすぐ中間テストだろう? 危ないみたいで赤也が蓮二に泣きついてきたらしいよ」 「たるんどる」 「アイツ大丈夫か? 一応受験生じゃろ」 「大丈夫だろぃ? 柳がいるし、うちは一応受験はあるけどエスカレーター式だし……お、ジャッカル!」 嬉しそうに笑った丸井は、ケータイを片手にひらひらと左手を振ると、そのまま出て行ってしまった。 「なんだか皆幸せそうだねぇ……柳生も」 「え?」 「今からどこかへ行くんだろう?」 仁王を一瞥した幸村がニヤニヤと笑う。その視線に気付く様子もなく、仁王は真田と話していた。 「えぇ、まぁ」 「どこ?」 「さぁ? 実は聞かされてないんです」 あの後何度か聞いてはみたが、仁王にはぐらかされるばかり。 そのまま結局はこの時間。しかしどこでも良いと思っている自分がいる事も、柳生は分かっていた。 「じゃあ早く行きたいんじゃない? 時間が無くなるだろう?」 「いえ、実は今日は私……」 「仁王。鍵は俺が返しておくから柳生連れて帰って良いよ」 「幸村君!?」 「良いじゃん。誕生日なんだし、思いきり楽しんでおいでよ」 「しかし……」 「他人様の好意は受け取っておくもんじゃ、柳生。行くぜよ」 「仁王君! いえ、しかし今日の鍵当番は私で……」 「正直、時間が無いから助かったぜよ幸村」 「お前は改めて礼しろよ、仁王」 「おー」 柳生の手を引きながら、仁王はひらひらと手を振る。慌てて幸村を見ても、彼はただ笑っているだけ。 仁王に腕を引かれて部室を出る間際、渋い顔で幸村を咎める真田の姿が見えた。幸村は仕切りにとぼけてみせていたが……あぁ、なんだか申し訳ない。おそらく彼等もこの後は予定があったのだろう。 けれど。 「すみません。ありがとうございます、幸村君、真田君!」 部室の扉が閉まる刹那、真田が愛用の帽子で顔を隠す姿が見えた気がした。 |