「おはよう、柳生君。今日誕生日だよね? おめでとう」


朝日に彩られた校門付近での事。少し肌寒い外気の中に、同級生の女生徒が一人立っていた。

その言葉と共に差し出されたのは、緑のリボンと黄色い花でラッピングされたプレゼントボックス。

おそらくはお菓子なのだろう。甘い香りのするそれは、柳生の手には何故かずっしりと重く感じられた。


「ありがとうございます。しかしこう気を遣って頂かなくても……」

「良いの。私があげたかっただけだから。それでね、柳生君」

「はい?」

「中に手紙入れてるから、良かったら読んでね」

「え……?」

「お返事はまた時間がある時で良いから、絶対読んでね」

「はぁ……」


じゃあね──そう言って走り去る彼女の頬が染まっていたのは、柳生の見間違いではないはず。

さて困った。手紙の内容は予測できるし、申し訳ないが答えは決まっているので悩む必要もない……が、問題は背後からの痛い視線。文字通り突き刺さるような、鋭い視線。

溜め息をつきながら振り返ってみれば、そこには予想通りというか、物凄い形相でこちらを睨み付けてくる仁王の姿があった。





※ ※ ※





「なんでプレゼント受け取ったんじゃ」

「御覧の通り、押し付けられただけです」

「拒否できたはずじゃ。お前さんの性格ならやんわりと……」

「私の性格なら断れない事、仁王君は御存知でしょう?」


校門近くの壁を背に佇む仁王は、黙り込みながらも不満げに柳生を一瞥した。身に纏う制服は変わっても、中身は一年前の──そう、付き合い始めた頃と全く変わらない。良い意味でも、悪い意味でも。

高校生になったのだから少しは大人になってほしいものだ、と柳生は常々思っている。


「手紙についてはきちんとお断りしますから」

「当然ナリ」

「プレゼントはお菓子のようですし……お望みなら丸井君にお渡ししましょうか?」

「俺が言うのも難じゃがお前最低じゃな。悪い噂が立つぜよ」

「大抵の方は信じませんよ。私は日頃の行いが良いですから」

「似非紳士。せめて見つからないように捨てる事じゃな」

「そうします」


ふと空を仰げば、澄んだ青に真っ白な飛行機雲。秋晴れとはこういう事をいうのだろう。

校門をくぐって仁王と二人並んで歩くのは、もう日常になってしまった。


「柳生、部活の後の予定は?」

「今日は特に」

「……プリッ」


今日は柳生の誕生日。仁王の性格を考えれば前々から予定を空けておくよう言われるかと思っていたが、そうではなかった。むしろ何も言われず、もしかしたら忘れているのではないかと思っていたくらいだ。

メールを受け取った時点でそうではない事は分かったが、やはり釈然としない。

勿論柳生は予定など入れていない。それを信じていたのか、それとも予定を入れるのは柳生の自由という事か……柳生はてっきり仁王がお祝いしてくれるものとばかり思っていたのに。


「柳生」

「はい?」

「部活終わったらデートじゃ」

「……」

「俺とデート、してください」


心なし緊張しているのだろうか。

それにしても今更だ。普段は柳生の都合など聞かず、好き勝手に連れ回して楽しんでいるのに……柳生もそれなりに楽しんではいるが。


「何かあるんですか?」

「別に」

「ではいつも通りでよろしいでしょう?」

「……っ、良いから黙って俺に付き合いんしゃい!」


驚いのは一瞬だけで、その次の瞬間には思わず笑ってしまった。仁王の様子があまりに必死だったからだ。


「はいはい」


適当にあしらうように返すと、仁王は気に障ったのだろう。不服そうに唇を尖らせてしまった。

あぁ、今日も平和で幸せな1日が待っている──柳生はなんとなく、そう思った。










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