首を絞められたような気がした。 正しくは寝ている時に突然胸倉を掴まれて、激しく揺さぶられた。おかげで首は痛いの息苦しいので、散々。 「熱烈アプローチは大歓迎じゃがコレはあんまりじゃろ……やーぎゅ。いくら仁王君でも逝くかと思ったぜよ」 「冗談言ってる場合ですか、仁王君。私という者がいながら他人を連れ込んだりして……どういうつもりですか!?」 ぼんやりした思考で柳生の言葉を反芻する。 ……他人? 他人!? 「は? いや意味分からんぜよ」 「じゃあそこにいるのは一体誰です!?」 ほら、仁王君の隣!──そう指差す柳生のその先……そこには1人の男の姿。端正な顔立ちの彼は、俺の腕をしっかりと抱きしめて裸のまま眠っている。 どうりで動き辛いと思った……というよりこの顔は──…… 「……柳生?」 「そうです。しかし私そっくりの他人です。私はここにいるんですから。堂々と浮気なんて……信じられません!」 「待て待て待て待て。本当に知らんぜよ! それに浮気ならもっと上手くやる!」 「何ですって!?」 「いやごめん、嘘です。すみませんでした」 「どうせ私が眠っている間2人で楽しんでたんでしょう? 仁王君は変態ですから」 「その変態と付き合いよるのはお前さんじゃろ……じゃなくて! 本当に知らんぜよ! お願い、信じて柳生! 大好き! 愛してる! 柳生最高!」 なんとか機嫌を取ろうとしても無駄。完全に拗ねてしまった柳生は、全くこちらを向いてくれない。 つか俺の事は信じてくれんのじゃな、やーぎゅ…… 自分のせいでこうなっているとも知らず、柳生そっくりの男は眠り続ける。無邪気な寝顔に無性に腹が立って、俺はその鼻を摘んだ。 「はよ起きんしゃい、お前誰じゃ!?」 「ん……仁王、君?」 まだ半分夢の中にいるのだろう。眠たい目を擦りながら、その男は鼻声で言った。 つーか、声まで柳生そっくりとは…… 「なんで他人の部屋に上がり込んで、あまつさえ寝とる?」 「え、なんでって……」 途端に頬を染めて、柳生そっくりのその男は続けた。 「したいと言ったのは……仁王君じゃないですか。昨夜は特に激しくて……」 「仁王君、まさか貴方……私を抱いただけでは足りずわざわざ彼を呼び出して──!!」 「だから違うんじゃ柳生! 誤解じゃき!」 「何が違うんですか? あんなに激しく私を求めて……だけど私、嬉しかったです。そんな仁王君も好きですよ。愛してます」 「ほら、仁王君──!」 「あーもう、余計ややこしくなる! お前誰じゃ名を名乗れ!!」 「そんな真田君みたいな言い方しなくても……柳生ですよ。貴方の恋人の、柳生比呂士です」 「恋人!? 私がいながらどういう事ですか仁王君!!」 「待て待て待て待て柳生。突っ込むところが違うじゃろ! コイツ柳生比呂士ち言いよったぜよ。つまりお前自身ち事になる」 そうだ。間違いなく、そう言った。 柳生比呂士と名乗ったその男は、何が嬉しいのか一層俺に抱きついてくる。甘え上手……とでも言うのだろうか。俺の良く知る柳生の顔と声でそういう事をされるのは、思いの外悪くない。 あぁ、でも待てよ。この反応には覚えがある。 「あ、コレ仲直りの後の柳生じゃ……」 付き合っていながら普段はベタベタさせてくれない柳生自ら甘えてくる事が、極稀にある。それがケンカした後の仲直りの行為の後。仲直りできたのが嬉しいのか、それとも無意識か、柳生はこんな風に甘えてくる。 たぶん柳生が、一番素直になる瞬間。 そういえば…… 「なんですかジロジロと見て。いい加減説明して頂けませんか!?」 こっちの柳生はさっきから怒ってばかり。 対して…… 「あんまり見ないでください。大好きな仁王君とはいえ、恥ずかしいです……」 こっちの柳生はやけに素直。 「やーぎゅ」 「触らないでください、汚らわしい。こんな堂々と浮気する人、嫌いです。もう知りません!」 「いや普通に傷付くぜよ、それ。じゃあお前さんは?」 俺を叩き起こした柳生にしたようにその顎を掬うと、甘え上手なもう1人の柳生は嬉しそうに目を閉じる。素直に俺のキスを受け入れた。 「大好きですよ、仁王君」 はにかんだ笑みが、いつになく可愛い。 しかしやはり2人共柳生に間違いない。ただ俺の知る柳生とはどちらも微妙に違う……そう、例えるなら俺の柳生を“ツン”と“デレ”に分けたような、そんな感じ。 なんでこうなったのかは良くわからん。でも…… 「せっかくだから楽しまな損じゃろ、やーぎゅ」 ※ ※ ※ 「腰が痛いです」 「俺は頬が痛いナリ」 「自業自得です!」 そう言ってそっぽを向く柳生の身体には、無数の赤い痕。全て俺が付けたもの。 そして俺の頬には、でっかい手形。柳生が起きて一番に付けたもの。 起きたら柳生は1人になっていた。俺は2人の柳生と遊んだはずなのに。 けれど痕の多さと柳生の態度を見る限り、やはりアレは2人共本物の柳生だったんだと思う。“ツン”も、“デレ”も、どちらも柳生。何故2人に別れたのかはよく分からないが。 「仕方ないじゃろ。どっちの柳生も可愛かったし……いや、ツンしかない柳生は可愛くないけど」 「煩いです」 柳生にはどちらの記憶もあるようで、恥ずかしい気持ちが半分、困惑した気持ちが半分。けれど抱き寄せても離そうとしない辺り、やっぱり俺の柳生は可愛い。 「可愛い柳生が2人もおったから俺止まらんかったぜよ。けど……」 「……何ですか?」 “ツン”も“デレ”も併せ持つ柳生。それが俺の知る柳生で、大好きな俺の柳生。 「やっぱりこの柳生が一番じゃ」 笑みを浮かべて唇を奪えば、柳生は拗ねたように、しかし恥ずかしそうに俯く。 その柔らかさをもっと味わいたくてもう一度唇を寄せてみれば、調子に乗るなと言わんばかりに拳を喰らった。 |