チッパーさん
「アーロンアーロン」
「何だ」
「アーロン大きくなったよね」
「でかくもなるだろ」
「そうだよね、そうだよねえ」
目の前に居る大きな魚人と、ずっと昔の記憶の中に居る小さな魚人を重ねた。人魚の私と魚人の彼がどういうふうに出会ったのかは、もう忘れちゃった。だけど、その初めての出会いの日から今日までずっと。小さな魚人が大きな魚人になるまでずっとずーっと。彼は私を守ってくれた。たくさんの悪い人達に狙われる私をずっとずーっと守ってくれた。優しいところは、あの小さい頃のまんまなんだよね。
「アーロンって物好きだよね」
「人魚を飼ってるから、か?」
「人魚を飼ってる人なら世界中にたくさん居るわ」
「そうだな」
「だけど、アーロンは物好きなの」
アーロンは私を飼っている、と言うけれどそれは照れ隠しのようなものだって私は知ってる。
アーロンは私を傍に置いてくれるだけじゃなくて、さっきも言った通り守ってくれる。それに優しくしてくれるし、愛を囁いてくれるの。人魚を水槽にいれて楽しむような、そういう人達とは全然違うの。だから、アーロンは物好きなの。
「アーロンアーロン」
「何だ」
「好き」
人間でいう爪先にあたる部分が、ぱちゃんと海面を叩いた。まあ、簡単に言うと私の尾鰭。
「お前は変わらねえな」
「褒めてくれてるの?嬉しい」
「昔のままだ」
アーロンの細い目が閉じた。私の尾鰭がまたぱちゃんと海面を叩いた。
「アーロンアーロン」
「何だ」
「だけど、私はいずれ昔のままではいられなくなるわ」
「ああ、そうだな」
「そうしたら色んなところに連れて行ってね」
「考えておく」
もうすぐ私は陸に上がります。陸のことはあまり知らないし、うまく歩けなかったらどうしよう、なんて不安もあるけど。だけど、貴方が居てくれるから。私はどんなに下手くそでも前を向いて歩けます。
「アーロンアーロン」
「好きだ」
「…ずるい」
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チッパーさん企画参加ありがとうございます!
チッパーさんがくれるリクは本当にいつもいつも素敵できゅんとしてしまいますっ。特にこの人魚のお話は書いていてすごく楽しくて、機会があればまた書いてみたいなと思いました。
ではでは、企画参加本当にありがとうございました!
2011/03/05.