藤村さん
「おい」
「何ですか、エネル様」
「何故残った」
「さあ、どうしてでしょうか」
「正気か?」
「ええ、ご心配ありがとうございます」
目の前でガン・フォールを神の座から引きずり下ろしてやったというのに。馬鹿なのか気が狂ったのか、ガン・フォールの神隊の中でも一際弱そうな女が1人、私の下に残ってしまった。
「貴方は、あまり悪い方には見えないので」
消え入りそうな女の声が届くと同時に不快感が増した。この女は何故この私を信じるような目で、何も疑わないような目で、笑うのだ。何故そんなにへらへらと笑うのだ。読めない、気味が悪い。復讐か何かのつもりか、さては本当に気が狂ったのか。
「お前は何を考えている?」
「さあ、自分でもよく分かりません」
「何が望みだ、何を企んでいる」
「そんなものありません。いらなくなったら捨ててくださってもかまいません。だけど、できればお側に居させてください」
「使えぬと分かればすぐに殺すぞ」
「ありがとうございます」
少し、ほんの少しだけ昔の夢をみた。目だけを動かして足元にあれを見つける。乱暴に頭を蹴ってやれば小さくうなって目を覚ます。
神官が寝てどうする、馬鹿かこの女は。
「おはようございます、エネル様」
「口元をどうにかしろ」
「あ、すみません」
だらしなく垂れた涎を拭ってへらへらと笑うこの女がどうして神官に見えようか。私も私が理解出来ん。
「エネル様、何か必要な物はありますか?」
「ない」
「そうですか、何かあればお申しつけください」
またへらへらと笑う女の顔、腕、足。他にも服で隠れたいたるところに痣があるだろう。すべて私がつけたものだ。理由などない、気に食わなかったただそれだけ。なのにこの女はどうして、今もここに居るのだ。酷く扱えば本性も見えてくるだろうと思っていた、だがこの女は本性を見せるどころか私に懐く一方だ。気に食わない。
「痛まないのか」
「え?ああ、これですか?大丈夫ですよ。それに、悪いのはエネル様の邪魔になるようなところに居た私ですから」
眉間の皺が深くなるのが自分でも分かった。この女は本当に馬鹿の中の馬鹿らしい。やっとそれが分かるとどうしてか気も楽になる。
「お前、名は」
「…×××です」
「×××、か」
私が本当に気に食わなかったのは、どうやらこんな女に振り回される自分自身だったようだ。
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藤村さん、企画参加ありがとうございます。とても詳しくリクしてくださったので私もとても書きやすかったです。そして藤村さんが考えてくださった設定に私もどきどきしました。
ではでは、企画参加本当にありがとうございました!
2011/02/28.