世羅さん
いつの間にか、ふと気付けば季節が変わってしまっているのと同じように。ふと気付けば、私の毎日には貴方が居た。
たくさん走って息切れをした時に、そういえば呼吸をしているんだと気付くのと同じように。その存在を忘れてしまうほど、貴方はずっとずっと誰よりも私の近くに居た。
「手、大きいんだね」
「◎◎の手が小さいんじゃろ」
「意外とごつごつしてるし」
「船大工じゃからの」
にっこり笑ったカクから、少しだけ木材のにおいがした。私が知っている貴方のにおいはこれだけ。だから私は、貴方だけのにおいを知らない。ちょっとだけ悲しい。
「カクはどうして船大工になろうと思ったの?」
「何でじゃったかのー」
「忘れちゃった?」
「忘れてしまったわ」
「そっか」
大きく開いた貴方の口から聞こえる笑い声が、私の耳から体内に伝わってそして、体中に広がってじんわり。あったかくなる。私の声も、貴方にとってそうであってほしい、なんて。
「なら、◎◎はどうしてわしの隣に居てくれるんじゃ?」
「気になる?」
「気になる」
「教えないよ」
「どうしても?」
「どうしても」
本当は大した理由なんてないだけ。思い付きで何か言ってやろうかと思ったけど、これもまた大したことが思い浮かばなかったからやめておいた。だけど理由なんてないって言ったら何だか冷たいような気がして、教えないなんて嘘をついてしまった。
「じゃあ、カクはどうして私の隣に居てくれるの?」
「◎◎が教えてくれないならわしも秘密じゃ」
「ずるい」
「◎◎も一緒じゃよ」
帽子を深くかぶり直して、カクはにっこり笑ってくれた。それに私も笑ってみたけど、本当にちゃんと笑えてたかどうかは分からなかった。ただ、貴方がこれでもかというくらい必死に口角を吊り上げていたことだけは、覚えてる。
「カクはどうして、私の隣に居てくれないの?」
気付けば季節が変わってしまっているのと同じように。ふと気付けば私の毎日に貴方は居なかった。
たくさん走って息切れをした時に、そういえば呼吸をしているんだと気付くのと同じように。その存在はあまりに近過ぎて見えない。
私は呼吸せずには、生きていけない。
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世羅さん企画参加ありがとうございます!カクかエネルで甘めかシリアスということでしたので、勝手にカクでシリアスにさせていただきました。シリアスな雰囲気に出来ていたでしょうか?私もカクのシリアスなお話が大好きなので、少し緊張しつつ書かせていただきました。
ではでは、素敵なリクエスト、企画参加本当にありがとうございました!
2010/12/25.