今から来れる?
二つ返事で行くと伝えて急いで準備を終わらせた。うまくまとまってくれない髪を無理矢理まとめてキャップを目深くかぶって気だるそうな目を無理矢理大きく開いてしわくちゃなTシャツを脱ぎ捨てて。普段ルッチ達と出かける時なんかはこのまま行ってるのにななんて思うと少し笑えた。
コートの奥に隠れたワークシャツを引っ張り出してくたびれたスニーカーで走った。
「待ったか?」
「思ったよりはやかったねー」
タバコを吸うその隣にぎこちなく座ってみる。何とも微妙な距離感。
「飲む?」
「もちろん」
既に空になった缶の奥にある未開封のビールを1本渡された。
「なんか急に誰かと飲みたくなっちゃってさー」
「×××もそういう時があるんか」
「それで誰を誘おうかなーって考えたらなんか分かんないけどカクと話したくなってさー」
ごめんねと笑う横顔が可愛くてしょうがない。ただの気まぐれでもわしが選ばれたということがどうしようもなく嬉しい。
「もーすぐ夏だねー」
「またみんなで海でも行くか?」
「去年はジャブラが溺れて散々だったね」
もう1年経つのか。わしらが知り合ってからもう。結局なにも出来んまま過ぎてしまった。
「あの時のカクの焦った顔!面白かったなー」
「まさかあの老け顔が溺れるとは思わんじゃろ」
「ほんとだよー」
あの日から色々あった。暇さえあれば意味もなく集まって飲んで騒いで。特別なことはなにもなかったがお前さんが居てくれたからわしにとっては全部意味があることじゃった。
「ずーっとさ」
「ん?」
「ずーっとずっとこうしてたい」
勘違いしかけてやめた。期待なんかしない方がいい。酒の勢いにまかせて気持ちを伝えたところでなんの意味があるんじゃ。
「大人になんてなりたくないよ」
「そー、じゃな」
「いつか終わっちゃうなんて悲しすぎるよ」
「終わるわけではないぞ」
気休めを言ってしまった。わしだって終わりが来るのは分かってる。関係がなくなるとかそういうことではなく。その時だけをただ馬鹿みたいに楽しめる今がいつか終わるのは分かってる。大学を出たらきっとそうなる。
「カクとも会えなくなっちゃうのかな」
「連絡をくれればいつでもかまってやるわ」
「そーゆんじゃなくてさ」
「なんじゃ?」
「理由とかなくても会えるようになりたいな、みたいな」
今になって酔いがまわってきた気がする。なんじゃなんじゃ。落ち着いてくれ。
「のう、×××」
「ん?」
「なんじゃ、その」
「なんだよー」
「わしら、つきあわんか」
飲みかけのビールが地面に落ちて転がった。しゅわしゅわと中身が流れていくのをただぼうっと眺めた。
「私も同じこと言おうと思ってた」
(アルコールの力任せ)
20150507.