雨が降ってる気がする。たぶん、これは本当に気がするだけで雨なんか降ってないんだろうけど。だってここにはもうずっと雨なんか降ってないから。だけど、風で飛ばされた砂が窓にあたるのと、雨があたるのと、ちょっと似てるからやっぱり降ってるような気がする。
こんな夜に、あの人は、サーは何を考えてるんだろう。私には分からないけど、きっと私のことなんかは間違っても考えてないだろう。嬉しいような、切ないような。
カツカツと、廊下をこっちに向かってくる音が聞こえる。いくらか急ぎ足のような、焦っているような。何かあったんだろうか、私がドアの前で止まるのと同時にドアの向こうで廊下を進む足も止まった。
ドアノブに手をかけた瞬間、乱暴にそのドアが開いた。
「サー…」
「そんなところで何をしてる」
「足音が聞こえたので…何かあったんですか?」
「いや」
「じゃあ、サーはどうしてここに?」
「何でもねえ」
サーは苛立っている。何故かは分からないし、私もどうすればいいのか分からないし、どうしよう。
「何か、飲みますか?」
「………」
「何か食べますか?」
「………」
「えっと…」
「………」
「あの、」
舌打ちだけが帰ってきた。
「サー、あの」
「喰わせろ」
「な、何を?」
「察しろ馬鹿が」
「サー?」
「雨が、降ってる気がして落ち着かねえ」
「私もです、サー」
2011/08/09.