夜の11時ちょっと前。偽物の私はやっと本当の私に戻れる。おもしろくもないのに、にこにこするのは苦手。好きでもない相手に愛想よく振る舞うのも苦手。だけど全部全部任務なんだから仕方ない。そう割り切るしかないんだ。鍵をがちゃりと開ける。偽物の私が終わる音。
真っ暗闇の中で、電伝虫がせわしなく鳴ってた。こんな時間にいったい誰だ。任務うんたらかんたらの長官だったら切ってやる。
「こんな遅くに何ですか任務の話だったら切りますよ」
「俺だよ俺!だから、切るな…な?」
「なんだ、ジャブラかあ」
「嬉しくねーのかよ」
嬉しくないわけないじゃんか。正直めちゃくちゃ疲れてたからさ、私。嬉しくないわけないじゃんか。てか、こんな時にかけてくるなんてずるいよ。
「何だお前もしかして」
「……なに?」
「泣いてんのか?」
そんなわけないと声を荒げた時にはもう自分でもどうにも出来ないくらい息が苦しくて、嗚咽も隠せないないくらいで。向こうでは、ジャブラが下品な笑い声をあげてて。
「お前、泣いてんのかよ?ぎゃーはははは!何で泣くんだよお前意味わかんねーよ!」
「うるさいっ」
「だっておまえ」
「うるさいばかっ」
どっちの声もなくなって、すごく静かになった。こんなん言ったりしたいわけじゃないのに、私もジャブラもガキだからいつもこんなで。もう、ほんとばかみたい。
「用もないのにかけてくんなばか」
「何だよ、それ」
「てか、もう二度とかけてくんな!」
「お前が寂しいんじゃねーかと思ってせっかくかけてやったってのに、二度とかけてくんなはねえだろうが」
「うるさいっ二度とかけてくんな!」
もういい、こんなふうに声なんて聞きたくない。余計寂しくなる。
「二度とかけてくんな…どうしても私と話したかったら、会いにこいよばか」
無理だって分かってる。そんなん出来ない、出来るわけない。ジャブラにだって仕事があるし、それ以前に任務中に会うなんてそんなの、絶対に無理。無理無理無理。
「んなこと、出来るわけねえだろうが」
「分かってるよばか」
「…泣くなよ」
「ジャブラが、泣かしたんじゃん」
「悪かった、だから泣くな」
「泣いてないよばか」
「泣くなって言ってんだろうが…会いたく、なるだろ」
(声に形があったなら私は迷わず抱きしめるのに)
2011/05/04.