「………ちょうか、」
あからさまに不機嫌な長官の腕が、机の上を右から左へ大きく動いた。床には書類とか、インクとか、コーヒーとか。そんなものが乱暴に落ちて跳ねて落ちた。コーヒーとインクが混ざって、黒なのか茶色なのか分からない染みが広がる。
「長官、」
「うるせえ!俺が質問した時以外勝手に喋るな!」
ばんばんと机を叩く音に、嫌でも肩がはねる。
「何か言えよ!」
「………長官」
長官がこうして荒れる姿は何度か見てきた。上に意見が通らなかったとか、CP9の誰かが失敗して自分が怒られたとか、理由は色々あるみたいだけど。
そのたびにいつもいつも、こうしてやり場のない怒りを抱えるのは長官だ。誰にも分かってもらえないで、1人荒れるのは長官だ。
長官はいい意味でとても人間らしい方だから、きっと彼等超人をまとめるのはすごく大変だろう。そして逆に、彼等はとても自由な人だから長官がこんな苦労をしてるだなんて、あまり知らないだろう。
「長官、長官、泣かないでください」
「は?泣いてねーよばか!泣いてんのはお前だろ!」
「誰が、長官なんかの為に…」
だって長官が…そんな顔するから。泣きたいのに、貴方はもうそんな歳じゃないし、プライドも高いから。そんなことを勘繰るうちに、私はこうしていつもいつも。
「お前は、いつも俺の為に泣くんだな」
「だって、だって」
貴方の悔しさとか、苦しさが全部全部私に流れてきてくれたらいいのに。全部ください、とは言えないけど、同じに感じることくらいはしたいから。
「泣きたくなったら、私に触れてください」
「うるせえよ、ばか」
(コーヒーカップが割れるたびに貴方の心もガラガラと)
2011/05/02.