ねえ、そんな顔しないで。私まで泣きたくなっちゃうよ。


「どした?」
「んー…」
「どした?」
「別に、」
「何でもないって顔、してないよ」
「名前には隠し事できねーな」


まいったよ、つぶやいて髪をいじるカマキリの顔はやっぱり泣きそうで。やっぱり私も泣きそうになった。


「俺の好きなやつには、好きなやつがいてな」
「うん」
「俺が入る隙間なんてこれっぽっちもねえんだよ」
「うん」
「あいつが笑ってられるんだったら、それでいいと思うんだけどな」
「うん」
「やっぱり、俺はそこまで大人になれねえ」


カマキリの好きな人が誰なのかは知らないけど、私はここで何て答えたら正解なんだろう。
自分からカマキリに聞いたのに、うまい答えが返せないなんて。


「カマキリは、どうしたいの?」
「…俺は、」
「そりゃ、私も好きな人には1番幸せな形で笑っててほしいなって思うけど…でも、それでカマキリがこんなに苦しそうな顔するのは見てられないよ」


だって、だってさ。


「私が笑っててほしい人は、カマキリだから」
「ワイパーじゃ、なくてか?」
「ワイパーとか、関係ないよ、今」
「お前、ワイパーが好きなんじゃねーのか?」
「私、さっきの一応告白のつもり、だったんだけ、ど」
「そうか、そか」


すっごい驚いた顔をしたすぐ後に、私が望んでた笑顔が溢れた。どうしてたったこれだけの表情筋の動きが、こんなにも私を満たしてくれるんだろう。不思議だ。



(世界中の人が笑顔になっても、貴方1人が笑顔じゃなかったらそれは私にとって無に等しい)


2011/05/28.

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