ふわふわ道中 | ナノ

 夜の街と白い衣装

『ほら、ちゃんとポーズとらないでよ、ピースいらない、こっち向かないで』
「ひどい言われようだな、オイッ!!!」
『快斗が悪いんだよ、ほら自然体自然体』
「オレのせいかよっ!?」

ここはとあるビルの屋上。そして目の前にいるのは真っ白い衣装を身にまとった快斗。最近では“怪盗KID”として巷を騒がせているんだとか。まあ私の知ったことじゃないんだけれども。
何でコイツの正体を知っているのかと言うと…

「音夢姉ちゃん、従姉だからって遠慮なさすぎんだろ…」

ただの従弟だから。私は身内にこんなのがいようといまいと関係ないけど、こうして撮影をしているには訳がある。その理由はただ一つ。夜の街と白い衣装のコントラスト加減が好きだから。それだけの理由で…と思うかもしれないけど私はその写真が撮れれば十分満足なのだ。それほど私にとって価値がある。

パシャリ、パシャリ。何枚か撮っているといつの間にかビルの下はパトカーで囲まれていた。

「音夢姉ちゃん、音夢ちゃん?見えてっか!?この有様!!どうすんだよ!?」
『えー…だって快斗がここに来んの遅いのが悪い』
「理不尽!!!オレは宝石一つ盗んでからここに来てんだよ!それに写真は一枚だけで撮ったら直ぐ帰るって約束を…」
『してないよ、そんな約束』
「したんだよっ!!!」

そんな言い合いをしている内にどんどんパトカーは集まってくるし、階段を駆け上がってくる音も近づいてくるし、辺りが騒がしくなってくるし…あー…本当にどうしよ。

「ったく、しゃーねぇなぁ…」

シルクハットを被り直しながら快斗はそう言うと、ヒョイっと私を抱き上げた。所謂、お姫様だっこってヤツ。

『…え?』
「しばしご辛抱ください。必ず貴女を守ってみせますから」

すっかり仕事モードに入った快斗は私に微笑んで見せた。私はそれが何故か気に食わなくて思わず眉をひそめる。

『…胡散臭いセールスマンみたい』
「台無しっっ!!!」

こうして私と怪盗KIDは夜の空に飛び立っていった。

後日―――
「“しばしご辛抱ください。必ず貴女を守ってみせますから”“しばしご辛抱ください。必ず貴女を守ってみせますから”」
「ギャアァァッッ!!!何で録音なんかしてんだよっ音夢姉ちゃん!!つか連続再生やめてくれぇぇ!!!」

後後の嫌がらせとしては十分な役割を発揮した携帯のテープレコーダーだった。


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