ふわふわ道中 | ナノ

 京都と色黒男

やっぱ京都はいいなぁ…
パシャパシャとシャッターを連続してきる。
今日は三連休の二日目。休みを利用してのらりくらりと一人旅の真っ最中。
あ、この角度…日差しが良い感じでいいかも…

ちなみに場所は金閣寺。といっても金閣寺じゃなくて周りの植物やら滝やらを撮っているわけだけれども…写真に夢中になりすぎていたらしく、ドンッと前を歩く人にぶつかってしまった。

「うおっ!」
『あ、すみません』
「こっちこそ急に止まってもうて堪忍な」

ぶつかってしまった相手は真っ黒…じゃなくて色黒だった。笑顔からして悪い人じゃなさそう。ペコリと頭を下げて先に行こうとすれば急に呼び止められ、それは叶わなかった。

「ちょ、待ちぃ!」
『……ん?』
「これ、アンタのやろ。落としたで」

彼が拾ってくれたのはフィルムケース。お礼を言って立ち去ろうとすれば何故か隣に並んで歩いてくる。あれ、これ一緒に行かなきゃいけないの?

「今時フィルムなんてけったいなモン使っとるんやなぁ」
『うん』

「その一眼レフ、立派やなー、少し見してくれへんか?」
『…いいけど、落としたら清水寺からダイブね』
「ハハッお前さん、おもろいこと言うんやな」

私の愛用している一眼レフを渡せばまじまじと彼は見始めた。

「ほおー!こんな間近に初めて見たわーこうなっとるんやな」
『レンズ触らないで…あと…』

私の言葉を遮るようにパカリと音がした。

「中はこうなっとるんかー、でこれがフィルムなんやな…ほおほお…ん?どないした?」

除きこんでくる彼に私は思いっきりカメラを引ったくった。何か叫んでたけどそんなの知らない。もうコイツ嫌い、もう関わらない。そう心に決めて今まで歩いてきた道を小走りで戻る。

「ほんま!どないしたん?なんやオレ不味い事してもうたかっ?」

いつの間にか隣を走ってる彼に苛立ちを覚えながらも教えてやることにした。

『ここを開けると写真、現像できなくなるの。フィルムに日光当てるのはご法度』

すると彼は金閣寺の最初の所に戻るまで謝り倒しだった。許したくもないし、私は完璧無視。建物の中でフィルムを取り換えてまた外に出る。

「すまん!ほんま申し訳ない思うてる!この借りは必ず返す!何でも言うこと聞いたるから許してくれ!」

突然、土下座までされさすがの私も面食らった。

『…フィルム100本』
「へ?」
『それで許してあげる』

パアッと表情を明るくさせたかと思うと手を取られてブンブン振り回される。

「おおきに!おおきに!よう分かった!フィルム100本な!」

こうして嵐は去った。何でか彼は帰り際私の携帯で勝手に連絡交換していた。フィルムを渡す時、連絡したいかららしい。
電話帳を開くと、新しく“服部平次”の文字が保存されていた。さてと、撮り直し行きますか。


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