熱で溶けても焦げはしない



「はい、ソウル。」

ハッピーバレンタイン
拙い言い方でヒビキはにへらと笑いながら赤い包装紙に包まれた小さな箱を取り出してきた。

「おう……………っえ?バレンタインって男が送るもんじゃなくね?」
「このあいだ、英語科のマチス先生に教えて貰ったんだけど外国だと男の人がチョコ渡すんだって。」

だから、はい。
そういってヒビキは出しかけていた俺の手に赤い包みを置いた。

「が、頑張ってみたんだよ…?形あまり綺麗じゃないんだけど。」
「………手作り?」
「…うん。」
「やばい、今顔見るな。」
「え、っわ!?」

もじもじしながら俺の横に座り直して此方を気にしているのかちらちらと見るヒビキの口から出たのは「てづくり」の四文字。

たかだか刻んで溶かして形変えるだけの作業なのに何故だかもの凄い顔が熱くなって、ヒビキに見られたくなくて俺はヒビキの手を引いて顔が見えないように胸にヒビキの顔を押し付けた。

「ソウル、心臓凄いばくばくいってる。」
「うっせえな」
「ふふ、嬉しいな。」

ねえ、食べないの?とヒビキが俺の背中をつつく。もう少し、と俺は顔の赤みが引くのを待った。

ちょっとしてから俺はヒビキを離して貰ったチョコを食べようと包みを開けた

「…………え」
「…うわあ……」

俺はそんなに熱を放っていたのか中のチョコは指で触れば確実に汚れる程度に溶けてしまっていた。

「溶けてる、ね」
「…悪い」
「いや謝らなくていいよ。まだ食べれるしさ…、はい。」

チョコを摘んですいと差し出すヒビキ。こ、これなんだ、アレか!?はいあーん的なやつか!!?
どぎまぎしながら俺はチョコを口に含む。甘い味とほんのり薫る洋酒の匂い。
手が込んでいる、と思った。
俺がチョコを食べたのを確認してヒビキが伸ばしていた手を引こうとした。俺はヒビキの手首を掴んでぐいっと此方側に引き寄せた。ヒビキは驚いた顔をしていたが俺は構わずそのチョコで汚れた指を口に含んだ

「────ッ!?」

親指と人差し指を一本ずつ丁寧に舌で綺麗に舐めとる。ヒビキは顔を真っ赤にして口をぱくぱくと動かす

「なっなに、しっして……!!、ソウルっ」
「何だよ」

俺が口を離せば急にヒビキが手を引こうとしだした。仕方なく俺が手を離せばその手を別な手で被いながら

「もう…、いきなりやらないでよ、びっくりした…。」
「言えば良かったのかよ」
「え、や…そういう訳じゃ」
「ならいいだろ。それよりほら」
「は?」
「…何、チョコ食わしてくれるんじゃねえの?」

くくっ、と喉で押す笑いをすればヒビキは茹で蛸みたいに顔を赤くしながら暫く目と手を四方八方動かし、それからチョコに手を伸ばした。


そんな事を2、3回続けてヒビキが作ったチョコは全て俺の胃袋へと収納された。
ヒビキは未だ赤い顔のまま、俺を見て口を開き問い掛けてきた

「美味しかった?」
「不味かったら食わねえだろ、…まさかお前味見して無かったのか?」
「したよ!したけど…口に合うかなってちょっと不安だったんだよ。」

ああと納得して俺は意地の悪い笑みを浮かべてヒビキに近付いた。そしてそのままヒビキにキスをする。
ヒビキは首を竦めて俺の胸をとんとんと叩く。少ししてヒビキから唇を離す。ヒビキは真っ赤な顔を隠すように腕を顔に当てる。俺はそんなヒビキのまだ隠れてない額にキスをする。それから耳元で呟く

「安心しろ、俺はこの味が好きだ。」
「……………その為に一々キスなんかしないでよ…もう。」
「なあ、ヒビキ」
「…なあに?」

「ホワイトデー、期待してろよ?」

また喉を鳴らして笑いながら言えばヒビキは目を泳がせた後、「ヘンなことしないなら期待する」と小さな声で言った。


end



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