練習後、なんだか今日は部室が騒がしかった。反省と打ち合わせをしていた監督が顔をしかめる程に。珍しく木村先輩や大坪先輩の声まで聞こえたから、余程面白い話だったんだろうな。
早く返事をしなきゃ。
そう思っていても、なかなか言い出せなくてあっという間に1日が終わる。
答えなんてとっくに決まっていて。
本当はその場で言えることだったけれど、混乱しすぎてたから少し時間が欲しかった。
だって、相手はあの高尾和成。
彼がどれだけ人気者なのかなんて、よく分かってる。人当たりが良くて、面白くて、バスケに一生懸命。先輩たちや真太郎のことをすごく気にかけているし、負けず嫌いで。
そんな彼に不毛な恋をしたのは私。
絶対好き合うことなんてないって決めつけてた。
でも、和成に告白されて振り返ってみれば、そんなのは私が勝手に決めつけていただけだったんだって。自分でフィルターをかけてただけで、取り払って素直に受け入れれば、全部全部彼からの愛情だったのかもしれない。
なんて、自分で言うのも恥ずかしいけど。
......ほんと言うと、未だに夢心地だ。
ぼーっと更衣室から出て帰ろうと歩いていると、先輩たちがちょうど出てきたところだった。和成は......いない。きっと真太郎と帰ったんだろう。
「お疲れ様でした」
「おっ」
私の顔を見た一瞬停止する先輩たち。何事もなかったかのようにお疲れ、と言う彼らだが、顔が。いや、変って意味じゃなくて。なんでそんなニヤニヤしてるんですか。宮地先輩なんかは呆れ顔ってやつか。
「瀬戸ー。お前なあ」
「はい?」
顔をヒクつかせながら寄ってきた宮地先輩。木村先輩がその肩を持って、やめろ、とか言ってる。
「なんでだよ」
「おま、当たり前だろ」
「今更じゃん」
「そっとしておいてやれって。もうすぐ解放されんだから」
解放って。みなさんこっち見て。なんですか。さすがにこのメンツにガン見されるのは苦しいんですが。
木村先輩に何やら説得された宮地先輩は、小さく舌打ちをして去り際に「早くしろよ、轢くぞ」って言って帰った。後に続く先輩もみんな何か言いたげな視線を送ってきて。
まさか、和成さん......?
タイミング的にその線が有力だけど、あんまりその可能性は考えたくない。だって、さ。恥ずかしいじゃん。
色々考え出したら顔が火照ってきた。良かった、みんな帰ってて。
「あああああ」
ばかばかばか。一人で照れてる自分が恥ずかしいわ...!
駅に向かいながら、すれ違う制服のカップルを目で追った。あんな日が来るのかな、来ないよな、って憧れてた。
ねえ、和成。
和成も、そう思ってくれてたの?
私はもう、自惚れなんて怖がらなくていいんだよね?
足を止め、携帯を取り出す。
和成に短いメールを送って、私は近くの公園に向かった。少し待つかと思ったけど、予想以上に早く携帯が受信を伝えて。
【10分かかるかも。待っててくれる?】
「当たり前でしょ」
また心臓がバクバクしてる。
和成。早く会いたいよ。
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