朝がやってきた。


いつも通り目覚ましが鳴って、いつも通り電車に揺られて、いつも通り校門をくぐって。

すべてが変わらないその中で、私はふわふわと流されているようだった。



和成に昨日告白された。

夢じゃない、はず。

あのときの彼の表情や言葉が頭の中でぐるぐる渦巻いて、結局あまり眠れなかった。

今でも嘘なんじゃないかと思ってしまう。

そんなのは私の勝手な妄想であり、あれは現実だった、なんて分かり切っているのだけれど。



きっと和成は、いつも通り自転車でリアカーを引いて来る。変なラッキーアイテムを持った真太郎を乗せて。そしていつも通り、朝練で汗を流す。

私もいつも通り、


「っ、」


......無理。

むりむりむり。


いつも通りなんてどうすればいいのか、何がいつも通りなのか、もう分かんない。

和成のことを考えると、すごく熱くなる。すごく苦しくて、呼吸が浅くなる。本人を目の前にして、冷静になんてしてられないだろう。ああ、重症だ。


「おはようございます」

「おう。おはよう」


既に一番乗りしていた大坪先輩に声をかけて、用具の準備にかかる。迷惑だけは、かけないようにしよう。うん。


「おはよーございまーす!」


来た。大声が体育館に響き渡る。和成の後ろには、犬のぬいぐるみを持った真太郎がいた。早く入れ!轢くぞ!と後から来た宮地先輩が怒鳴る。

横目に見ていると、和成と目があって。思わずそらしてしまった。


「舞羽おはよー」

「あ、おはよ...!」


部室付近にいた私に近付いてきた和成が声をかけた。

普通に返せなくて一瞬どもる。へらりと笑う和成はそのまま部室へ入っていった。はあ、と小さく息を吐くと、まだその場にいた真太郎と目があった。


「っ、真太郎おはよ」

「ああ...瀬戸」

「ん?」

「......やはり俺が思った通りなのだよ」


はい...?ちょ、真太郎さんどういうこと?

一人納得した真太郎は私を置いて部室に行った。まさか、とは思うけど。でもあいつならそのまさかがあり得るから怖い。

...いやいやいや、考えすぎか。意識しすぎ、なんだきっと。


「よしっ」


マネージャーとしての仕事は別件だ。気合いを入れ直し、倉庫へと向かった。






「高尾」


Tシャツを着たころ、真ちゃんが入ってきた。


「何やってんの真ちゃん。早く着替えろよ」


今日のラッキーアイテムは犬のぬいぐるみ。小脇に抱える姿が笑えるけど、なんか似合っちまうのがすごい。


「高尾。昨日の帰り」

「あー!おしるこね!覚えてっから安心して」

「話を聞け」


おしるこは昼でいいのだよ、と呟きながら、真ちゃんはロッカーを開けた。


「昨日の帰り、瀬戸に何か言っただろう」

「......え?」

「告白でもしたか」

「、え?え?え?」


待てよ真ちゃんお前は何者だ。エース様だ。知ってっけど!いや、実はエスパー様!?


「図星のようだな」


ふん、と鼻を鳴らすエスパー様、もとい真ちゃん様。

一方の俺は中途半端にズボンを履きかけて停止中。


「早くその見苦しい姿をやめろ」

「あぁ、ごめん」


つーか、え、は?真ちゃんまさかの


「尾行してた......?」

「そんな趣味の悪い真似はしないのだよ」


だよなー。だよなー。

それにしても、言ってることピンポイントすぎねえ?


「あのさ、なんでそう思うわけ?」


やべえ。顔がひきつってる。だって、部内の奴にバレたら面倒くせえ。しかも昨日の感じだと、五分五分だろうし。

早々と着替えを済ませた真ちゃんは、ため息をつきながら俺の方を向いた。


「朝のお前と瀬戸の様子を見れば、大体察しはつくのだよ。特に瀬戸だな。顔に出過ぎだ」


言われてみれば、確かに。

さっきの舞羽はいつもと違って、ちょっと恥ずかしそうだった。頑張って普通にしようとしたけど、そんときは俺もつられちゃって。なんつーか、いつもと違う舞羽が、可愛いーなーとか思っちゃったり。


「デレデレするな馬鹿め」

「してねーよ!?」

「自覚症状がないとは、一番厄介なのだよ」


うっせー。......


「ってか待って。真ちゃん俺、」

「結果は目に見えているのだよ。わざわざ報告はいらん」

「ええ!?」


颯爽と出て行く真ちゃん。

分かってるって何。え、は?もしかして、俺、


「フられるの前提ってこと...?」


嘘だろ嘘だろ!いや、俺は信じてるよ!昨日言ってたじゃん!可能性ありって言ってたじゃん!

俺はおは朝<舞羽で信じるから。まじで。


「はぁー...うし、行くか!」


タオルを手にとって部室を出ながら、頭をかすめた舞羽の顔に少し不安を感じた。


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